清潔な男だった。私が笑いかけると、彼は目元のあたりに手をやりかけて、それが何か後ろめたいことかのように、行き場のない拳を握って誤魔化した。テーブルを挟んだ我々は、同じ企業の下僕である証を背負って向かい合う。彼は目を引く血統も経歴もなく、この先の道はパイロットとして企業間闘争の前線で命を張るか、小間使いとしてまだそれ用の機械が開発されていない雑事を片付ける日々を送るかの二択しかない。とはいえ適性ありと判断されて手術が予定されているあたり、成功しさえすればそれなりに華々しいキャリアが待っているかもしれなかった。私はコーディネーターとして、許された一定の範囲で何をどう調整するかを組み上げてやる役回りだが、まず確認すべきは彼が雑務のほうを好むかどうかだ。もちろんそちらに回してもいい。誰もやりたがらないくだらない仕事の場は、常に人を必要としている。
「さて、君は強化人間として社に貢献すべき人材のようだが、それを望むかな? 致命的な拒否反応の危険性は前の世代に比べて32%低下しているそうだから、もはや無視できるリスクかもしれないが……予想される後遺症と死に方の一覧は君の端末からも確認できる。もし死亡した場合には君の遺体は社の所有物となることには既に同意しているようだね」
「はい」
「ここだけの話、君が無能なら死んだほうが役に立つこともある。振る舞いには気をつけたまえよ」
澄ました顔にまだ初々しい恐怖がよぎる。だがそれを隠して現れたのは新兵にありがちな怯えではなく、野心だった。私は自分の軽口がもたらした効果に満足しつつ、端末の画面を送った。表示された顔写真はいま眼の前にあるのとライティングすらまったく同じで笑いを誘う。本名の下には成功の暁に付与されるであろう名が添えられていた。
「君の識別名は……
「いいえ」
「良かった。いまの段階で内耳を替えるとなると脳深部デバイスのグレードが落ちる」私はこれから彼の脊髄に植える装置のカタログを見せた。「いい品だが上を目指すならおすすめできない。いずれACに乗るなら必ず耳を新調することになるが、現行のシリーズの半規管と相性が悪い。連続したクイックブーストの後に目眩が生じることがあるそうだ。発生率とすれば修正すべき数字でもないが、戦場では生死を分ける。死んだら昇進できない」
昇進の二文字が私の仮説を補強した。若者の瞳の奥に、のろまな軟体動物にそぐわない光が宿る。いま彼の脳裏に閃いた情景は、決してMT乗りの一兵卒が見るものではなかったはずだ。面白い。まれにこういう人間を引き当てるのが楽しくて、泥臭い現場に近しい席に身を置くのだ。腐敗した貴族階級には、こういう獰猛さが足りない。
「それとさっきの癖だが、君が励めば埋め込み式のインプラントはそのうち卒業できる。目玉と視神経をそっくり取り替えるという形でね。デリケートな目を保護するという名目があるから眼鏡の使用はそう珍しいことでもない」
「お気になさらず。二度と起こりませんから」
彼はゆったりと両手を組み合わせ、眼の前の画面に見入った。まだ型落ちの副脳が映ったままの画面を、適切なものに切り替える。彼には少し高望みだが、無駄にならないチョイスだと思う。
「余計なお世話だったようだね。続けようか」
私は新入生をからかうのをやめ、真剣に強化人間の青写真を組み立てた。本人の努力で補える範囲から削り、後の拡張や装換のしやすさに重きを置いた。こうして真面目になってみると、調整はACのアセンブルに驚くほどよく似ている。卵と鶏の例えを頭から蹴り出しながら、私は彼が見苦しい筆の運びで署名するのを眺めた。品のいい顔立ちは見掛け倒しだ。ろくな教育も受けていない。それが野心の源なのは明らかだった。
「私の弟がアーキバスに入ることになっている」ごく個人的な話が、部屋を出る彼を引き止める。「きっと君を気に入る。会うことがあれば、良くしてやってくれ」
「私を気に入る?」
「父はサイコパスの息子を厄介払いしたいだけのようだが、適材適所の配役だ。それでは、さよなら」
彼は怪訝そうに眉を寄せながらも、答えをはぐらかす私を咎めることなく出ていった。私は椅子に背を預け、最後に生家で過ごした冬のことを思い返した。懐古趣味の暖炉の前で、幼い弟が遊んでいる。手にした玩具のパーツは驚くほど精巧で、実際の製品の完全なミニチュアだった。小さなACはあらゆるアセンブルを試された。私が尋ねると、彼は組み上げたばかりの愛機から目を離さずに返答した。乏しい語彙で編まれた言葉をまとめると、次のようになる。
可能性を探るのが好きだ。制限のあるなかで、一番面白くなるように。