ある不謹慎な会話のひとつ

 ヴェスパーの首席が見学の申請をしてきたのは実に手術の五分後で、私は責任者として二つ返事で彼を招き入れることに同意した。下手に拒否してつきまとわれても面倒だし、素人が一人いたところで術後感染のリスクが跳ね上がるだけだったので許容範囲と判断できたし、なによりフロイト氏はこう見えて他人の畑に立ち入る時には指示に従う男だったので、個人的に気に入っていたからだ。それに気になるじゃないか、と私は馘首に怯える同僚を説得した──嫌われ者のスネイル閣下とつるんでいるのはヴェスパーⅠくらいのものだし、スネイルにしたって彼を本気で煙たがっている様子はない。どういう間柄なのか、近くで見てみたいとは思わないか? 我が技術者の同胞は持ち前の好奇心で俗物的な恐れを克服し、なるほどとだけ言って同意した。そういうわけで、ヴェスパー部隊のお偉いさんが無菌の聖堂へ侵入してきたのだが、役職持ちにしては比較的気さくな男で、私は彼をますます気に入ってしまった。既に意識のない副官を見て、無害そうだなと呟いたのもよかった。そういう人間が面白がって聞くものだから、私は自分がしている作業を余さず実況解説した。閣下の皮膚はより強靭で感覚も鋭い、それに向こう十年つやつやですよ、AC乗りにとっては副次的な効果に過ぎないが、地球の特権階級の間ではこの点にフォーカスして発展した素材が一般的に使われています……少ないですがこのあたりの筋肉は自前のものです、ここからは私が敷いたものですが、まあ大した作業じゃありませんでした、ええ、閣下は御自身を弄り倒されすぎてもう生のままの彼があまり残っていませんね……ほら、御注目ですよ、こうすると簡単に胸郭を開くことができる……この製品の開発者は天才でしてね、引き抜きをかけられて、結果的に暗殺されちまいましたよ、ええ、ええ、損失ですが仕方ない……そら、心臓だ、見事だが時代遅れの代物なので、こいつは今日そっくり取り替えてしまいます。
 ヴェスパーⅠは全ての工程を食い入るように見つめていた。まなざしに宿る探究心は彼が我々の仲間だと知らせている。こちら側に来られる人間は少ない。倫理と常識と自己愛を枷とせず、罪の意識に縛られることもない、他人の評価を少しも気にかけぬ恥知らず。加えてこのまなざしには興味関心だけではなく、ある種の情のようなものが滲んでいた。私の好奇心がひげを立て、クルクルと鳴きだした。声を落として提案する。
「今なら殺せますよ」
 彼がマスクの下で微笑むのが分かった。上下の眼瞼が等しく寄り合い、紛れもない愛情の表現となる。
「今でなくても殺せる。普段がああなせいで、無防備なときはとことん気が抜ける」
「素晴らしい。では続けます」
 私はまた解説に戻った。熱心な観客を前に、我が舌は軽快に回った。フロイト氏は眠りに憩う恋人を見守るように、新しい心臓が滞り無く拍動するのを眺めていた。同意せざるをえない、いつでも殺せる相手は愛おしい。