夜歩くついで

 同居人が撃ち殺される夢を見て、彼らは殆ど同時に目覚めた。夢の淵に浸したままの意識をもたげ、彼らは空隙を挟んで横たわる互いの姿を確認した。それから交わした眼差しに相手の覚醒の意味を悟りながら、言葉少なにいたわりあった。悪夢とは親しく付き合っている年長者の微笑みは、向かい合う子の心を安らげ、また自らの恐慌も一息に和ませた。眠れないかもしれないな、と黒髪の男が呟くと、白髪の男が夜の散歩を提案した。
 二人は連れ立って出かけることにした。南国の暑気は月明かりに息を潜める草木の陰にわだかまり、時折触肢を伸ばしては二人のむき出しの膝を撫で、首の後ろへ回り込み、密やかに談笑する声を、思わぬ遠くまで届けようとした。彼らは久々に故郷の話をした。この場所の月夜とは異なる光明に満ち満ちた積雪の夜を懐かしみ、熱いシチューと落とした手袋の物語を、美しい過去として語った。この過去と同じ灰色の目をした男は、年若い同居人と並ぶ己の影を見て、その左足の不格好なのに笑声を捧いだ。右の青い目を濁らした隣の男は、真面目な顔でこれを否定した。真面目なうちにも悪戯心を起こしたこの男は、朗らかな反論に唇を開く相手の影に、己が影を重ねた。そうして暫くの間、影はひとつになったままだった。睦み合う二人を誰も見ていなかった。小さな生き物の合唱を除けば、ごく穏やかで静かな夜だった。