車を取りに家に寄ると、ヨスタトはもう帰ってきていた。たまに早引けしてくるのは、仕事がないのか労働環境がいいのか、どっちなんだか、きっとどっちもだな。ガレージはちょうどよく陽の光が差し込まず、おんぼろ車は涼しい日陰でサイドミラーを磨いてもらっていた。いい機会だし、俺は連れを紹介することにした。
「ネルシャ、こいつはヨスタト。俺の……なんだろうな、後見人みたいな人だ。ヨスタト、こちらはネルシャ・リノツク」
「はじめまして。ネルって呼んで」
「どうも。大学の?」
「そう。ジルとは鳥仲間なんだ」
ヨスタトはネルの自己紹介を、たった今初めて聞きましたって顔で聞いている。信じられないほど話と気の合う友達のことは、もう何度も話したから大体の情報は伝わっているわけだが、おくびにも出さない。さすが女性の扱いはお手のもの、うまく乗せられたネルはワシミミズクについて熱っぽく語りだした。専門だから長くなるんだが、ヨスタト、興味あんのか? 俺の心配をよそに、彼は興味深げに相槌を打ち、やや真剣なまなざしを向けている。ネルの健康的な小麦色の肌と高い位置でくくった艶のある巻き毛、無駄なく引き締まった長い手足、どれも結構魅力的だからそのせいかもしれない。そうだ、彼女は鳥の話をしている時には特に目が離せなくなる、黒い瞳が隠し持つ黒以外の全部の色がこぼれだし、全身きらめかせるようだ。
「おい、そろそろ行かないと日が暮れちまう」
ネルは目をぱちくりさせた。
「いけない、また喋りすぎるとこだった。ごめんなさい、私あんまり人付き合いが上手じゃないの」
「気にしないでくれ、面白かったよ」
気まずそうに首の後ろを撫でる彼女に、ヨスタトは屈託ない笑みで応えた。相変わらずの色男だ、ネルの横顔がうっとりして見えるのは気のせいじゃないだろう。
「手入れ中悪いが車を借りてくよ。これから岬に行くんだ」
「カモメを見にね」
「手入れって程でもないさ。ちょっと待ってろ、飲み物でも持ってけよ」
ヨスタトは俺たちによく冷えたお茶のボトルを持たせ、快く送り出してくれた。ネルは道中でやっぱりヨスタトを褒めていて(彼ってすごくハンサムね、しかもうんざりせずに私の話に付き合ってくれたし。ほんとは飽きてたかもしれないけど、そう見せないのが紳士ってもんでしょ)、俺は冷めたコメントをつけながらも、内心では少し誇らしい気持ちになっていた。