大丈夫

 ヨスタトってかわいいな……天使かもしれない。
 俺は冗談でなくそう思った。このあたりのお遊びなら俺よかよっぽど上手いだろうに、相変わらず俺のやる事に照れて真っ赤になる様子は、どう考えてもかわいかった。人をうっとりさせずにはおかないその端正な顔立ちには「かわいい」よりもずっと相応しい形容が幾つもあるんだが、こういう時のヨスタトはとにかくかわいい。俺はこのところ調子に乗っていて、ぼんやりテレビを見ている彼の肩へ無遠慮に(ほとんど押し潰してやろうかってくらい重さをかけて)もたれかかったり、寝ているところへそっと忍び寄り、俺が愛してやまない素敵なまだら模様と義足を外してすっかりリラックスした左足をなで回したり、事あるごとにベタベタしたり、まあ普通に考えたらうざったい事を山ほどやらかしていた。ヨスタトはだいたいの場合、やめろとかなんとか言うが真剣には拒まなかった。力任せに押し退けるのは寝起きくらい、しっかり目が覚めているときにはただ迷惑そうに顔をしかめて小言を言うだけだ。お前どっかおかしいんじゃないのか、確か俺が兄貴に似てるとか言ってたよな、俺だってお前のことは弟みたいに思ってるんだぞ、云々。確かに俺は兄貴に似てるとは言ったが、こいつは兄貴じゃない。できることなら、もっとあからさまに恥知らずなことがしたかった。今日はソファに押し倒しがてらそんな考えを言ってやったら、目を見開いたヨスタトは、みるみるうちに真っ赤になった。初めて素面でキスマークを付けてやった時も、あんたの事が好きだぜ~って繰り返し囁いてやった時も、こんな感じだったっけな。じわじわ紅潮していく優しい目元のありさまに、心の底を羽毛でくすぐられている気分になる。すっかり余裕なさげな二枚目は、言い訳じみた無意味な言葉を積み上げようとしては取り落としていた。お前とそういうことはしない、したくない……元工作員らしからぬ無様な狼狽えように、俺は思わず溜息をつく。なんてキュートなんだ。涙が出そうだ。頬を撫でると、露骨に身を固くするのが分かる。おいおい、俺がそんなに怖いかよ。
「ヨスタト、あんたって本当にかわいいよな……」
 うめき声がする。
「ジルナク……サイコ野郎はどっちなんだよ。お前、完全にいかれたらしいな……」