「あんたは兄貴に似てるが」ジルナクは椅子の上で片膝を抱え、向かいに座る俺に意味ありげな視線を投げた。「兄貴はあんたに似ていない。この意味分かるか?」
「いいや、さっぱりだ」
俺はろくに考えずに返事をした。考えても仕方ない。イズカイアの夜の時間はおおらかな昼間以上にのんびりと過ぎ、ありあわせの材料を寄せ集めた夕食を済ませてしまうと、眠気が訪うまでの暇をもて余すことになった。ジルナクはこうした長い空白を無意味な質問で同居人を煙に巻くことに費やしたがっていたが、俺は取り合わないことにしていた。こいつの距離の詰めかたは少しでたらめすぎる。他人の追求は軽いステップでかわせたが、無遠慮なケロイド男は踊り方を知らず、ただ俺を引きずり倒して、露にした痘痕や脚の断端を撫でたがった。滅茶苦茶だ。誰に対してもそうではないということは、大学でできたという友達の数で分かる。あの見てくれは人を多かれ少なかれぎょっとさせるが、それでも休日にマイクロバスで迎えに来る仲間達はジルナクの肩を抱き、何か楽しそうな声で笑いあっていた。相手が男でも女でも、中年でも子供でも、こいつはうまくやっている。
「分からないならいい。だがな、兄貴があんたに似ていたら、俺はあんたと寝たいとは思わない……」曖昧な微笑みがいたずら坊主のそれに変わる。「あんたが好きだ」
「そうか。そいつは良かった、好きでもないやつと暮らすのは最悪だからな」
これを最後に降りた沈黙のあいだ、ジルナクはさっきのにやにや笑いとうって変わって、起きがけに夢を忘れた子供のような顔をしていた。俺の事を俳優のようだと褒めてばかりいるこの男も、こうして見れば十分に男前だし、ケロイドだって醜くはない。ジルナクに言わせれば俺たちのこうした傷痕は、生き延びた証なのだという。死に損なった証ではなく。視線を移すと、ひっそりと静まりかえった夜の庭を、錆び猫が一匹、音もなく通り抜けていくところだった。俺はそろそろ眠そうな同居人を盗み見た。こいつは猫が好きじゃない。何を考えているか分からないから苦手なんだそうだ。だったら俺の事も苦手なんじゃないか、と聞いてみたことがある。冗談めかした問いに返ってきたのは、あんたは正直だよ、というごくシンプルな答えだった。