たわむれ

 いい夜だった。俺は親友と夜遅くまで話し込み、写真を眺め、本の論評をし(アイアド・ナト・ラズレクのユキチョウの本は文句なしの五ツ星)、野鳥のドキュメンタリーを流して、ソファでだらだら酒を飲んでいた。ネルは俺の肩に寄りかかり、テレビから流れてくるゆったりとした音楽に合わせ、眠たげに調子をとっていた。俺も小さく頭を揺らし、彼女と同じ遊びに興じた。そうして時間が経つうちに曲は変わり、画面の中の鳥たちは眠りについた。眠そうなキタマダラマツヨイのつがいを見ながら、俺たちはどちらからともなく手を握りあった。互いの指をもて遊び、優しく擦りあわせ、それから空いたほうの手を服の下に滑り込ませ、見慣れた脇腹や肋骨の縁を親指の根でなぞった。親友とこういう雰囲気になったのは初めてだが、悪くはなさそうだった。ネルシャは贔屓目に見なくてもとびきりの美人で、ほうぼう飛び回って作られた身体は引き締まってしなやかだし、何より俺のことが結構好きなのだ。向こうも俺が好きで、やぶさかでなし、という調子でキスまでくれる。指ざわりのいい褐色の肌を楽しんでいるうち、俺は妙なことを考えだした。ついさっき下着のホックを外してくつろげたばかりの胸元の柔らかさ、こいつのは手のひらに収まるくらいだが、もしヨスタトが女ならどのくらいの大きさだったろう?
 下らない思考が漏れだしていたかのように、俺に乗った身体がくつくつ揺れた。俺も堪えきれなくなって笑うと、途端にロマンチックなムードが洗い流されて、だらしなさすぎる格好の仲良しコンビがソファの上に残された。なんの含みもない親愛の情をこめて抱き締めてやると、ネルは額を押しつけるように俺の胸に顔をうずめ、抱き締め返してきた。果実味のあるいい香りが鼻をくすぐる。
「やっぱりだめだね、向いてない。私たち、友達でいたほうが楽しいもん」
「こういうんじゃない友達でな。お前、途中から俺の傷の数かぞえてたろ」
「ばれた?でも、ジルだってレクと比べたでしょ」
「比べてない」
「本当に?」
「あいつが女だったらどうだったろうとは考えた」
「ほら、そんで私と比べた」
 あはは、と楽しげな声が漏れる。きっとすんごい美人だね、と続き、俺は曖昧な返事を返して笑い、もう一度腕に力をこめた。