俺とヨスタトは毎晩熱くなった。あまりに激しすぎてお向かいさんから声がうるさいと苦情が来たほどだ。俺達は事が終わると汗だくになって、シャワーを浴びなおしてから寝なきゃいけなかった。年寄りのヨスタトは疲れているようだったが、それでもこの遊びはやみつきらしい。俺が食後にだらだらしていると、あっちの方から誘ってくる。昨日は四回戦までしたところで、お互い明日が早いのに気づいてやめにした。
はじまりはヨスタトが仕事場のパーティで一等を当ててきたことだった。俺はでかい箱をしげしげと眺め、中古だな、と感想を言った。ヨスタトはこう答えた──仕方ない、これは身内のバザーみたいなもんだ、要らなくなったものを持ち寄ってるんだよ。それに昔のでもけっこういけるんだぜ。俺も学生の頃よくやったよ、懐かしいな。うげ、あんたが学生の頃の機械って、それ化石だぜ。俺は憎まれ口を叩きながらも興味津津だった。うちの親はそういうのを買ってくれなかった。兄貴もだ。何本もあるコードをテレビに繋ぐヨスタトの背中はどこかうきうきと弾んでいて、俺は生まれて初めて弟を見守る兄貴の気持ちが分かった気がした。
「さあ、できたぞ……ソフトはと。おお、マッドレーサーⅡだ」
「なんだそれ」
「名作だよ。コントローラーは二個ある、お前も一緒にやるか?」
「へえ。よくわからんが説明は頼むよ……」
ヨスタトは説明は上手かったがゲームの腕はそれなりだった。というより俺のセンスが抜群だったのかもしれないが、比較対象が居ないから分からない。ネルを誘っても良かったが、俺はもう少し長く、ヨスタトと二人きりの夜を楽しみたかった。歳の近い兄弟がいたらこんな感じだったろう、コーナーを曲がる時は一緒に体を傾け、ゴールするとコントローラーを放り出したり肩を叩きあったり、馬鹿笑いと軽い挑発、それから拗ねてみたり、彼が子供っぽい感情を表すたびに、灰色の瞳が硝子玉みたいに透き通って見える。綺麗だった。
「ヨスタト、全敗だからってへそを曲げるなよ」
「大人をからかうな。お前に花を持たせてやったんだ。明日は手加減しないからな」
「そうかい。シャワー、一緒に浴びるか?」
「調子に乗るな」
ヨスタトが立ち上がると、俺は伸びをしてソファに転がった。今回も盛り上がりすぎて汗ばんでいて、このまま眠ったら顰蹙だ。水音が何故か兄貴を思い出させる。珍しく家に帰ってきたときにはいつも、長くシャワーを浴びていたっけ。それでキッチンで牛乳を飲みながら必ずこう言った、家ってのはいいよな。