「聞いてきた」
「何を」
気のない返事。ヨスタトは俺に構うのに飽きた様子でソファに寝転んで、雑誌なんかをめくっている。まさかこの男がアスパラガスのうまい茹で方を学ぶために買ってきたわけでもなし、『旬の色菜』はどこかで拾ってきたものだった。
「あんたの茹で方だよ。煮方でも焼き方でもいいが」
「へえ」気のない返事・その二だ。こっちをちらとも見やしない。「まわりくどすぎてわからん」
「だから、やり方を聞いてきたって言ってんだよ。そういう“社交場”までわざわざ出向いて。なんだ、やっと聞く気になったのか。お陰さまであってないような貞操を散らしそうになったよ……」
彼は心底呆れ返ったと言いたげな表情でしばし絶句し、読んでいたものを放り出した。渋い顔で額に手をやり、呻き声をあげる。ジルナク……
「お前、バカじゃないのか。自分を大事にしろよ」
俺は肩をすくめた。「気のいいやつがいてな、庇ってくれたよ。実地訓練せずに済んだ」親切な男の刈り込んだ頭とパンパンの二の腕を思い出す。耳の下から手首までタトゥーがびっしりだった。「あんたとの事を相談したら(おい、よせよその顔。色男が台無しだぜ……)説教されたよ。なにも突っ込むだけがセックスだけじゃないってな。言われてみればそうだ、一理ある」
「訂正する、お前さてはバカだな。この不毛な会話を終わらせる一言をひねり出すから一分待ってろ」
「必要ないよ。話ならここで終わりで構わない……」
俺は急いで起き上がろうとする察しのいい相棒の肩を押さえつけた。ヨスタト、あんたは優しい。本気で抵抗されればひとたまりもないのは、手触りに伝わってくる筋肉の厚みで何となく分かる。おいおい、なんて呟いて力を抜いてしまうのも、多分あんたの優しさなんだろうな。後ろ頭に手を差し入れればきれいに整えた髪型が崩れるが、まあ気にしないだろう。顔を近づけると灰色の目が泳ぐ。瞳の端で俺の影も泳いでる、なんて不細工なやつなんだ。それに引き換えヨスタト・ツァーレクの見てくれはそのへんの俳優よか余程整っていて、甘く柔らかいカーブを描いた下がり目は、余程上手く他人をたらしこみそうだった。彼は直前で目を瞑ったが、俺は軽いキスの間じゅうずっと、礼儀も忘れてこの色男に見入っていた。