無益な会話

「なあ、あんたはどうなんだよ」
「何が」
「知ってんのか? やり方」
 ヨスタトの眉間に皺が寄り、鉛色の瞳がまたそれかよ、と言いたげに俺の顔をじろじろ眺めた。まあそうだろうな、俺ときたらここ数日そんな話ばっかりだ。目を合わせているのが気まずくなって、買い替えたばかりの机に目を落とす。木目のきれいなパイン材のダイニングテーブルは少々値が張ったが、大きさも高さもちょうどよく、揃いの椅子と並べると、充実した生活をしみじみと感じさせてくれた。俺達はようやくそれぞれの定職を見つけ(俺の方は定職とはいえないが、国立公園のバイトは悪くない)、先月二人で塗った壁には、まだ一つの染みもなかった。うんざり顔のヨスタトが剥いているのはなんとかという南国のフルーツで、向かいに住んでる婆さんがくれたものだ。ご近所づきあいまで始まると、ますますこの暮らしが地に根を張ったもののように思えて嬉しい。ただ、婆さんは何か勘違いをしているようで、旦那さんによろしくね、とか言っていた。最悪なことに、俺はちょっとはにかみながら礼だけ言って家に戻った。くそ、俺はそのうちフリルたっぷりのエプロンを着て、ヨスタトの上着にちっちゃな花でも刺繍してやるようになるのかもしれない。化物かよ。
「もちろんお互いに準備はあるだろ。別に今夜ヤろうって訳じゃない──おい、いいから座ってろって。単純に興味の話だよ……」
「もうその興味は捨てろ。これ以上お前に余計な事を教えてたまるか、俺の胃がもたない。話は終わりだ、お前も手伝えよ。この半分はコンポートにしよう」
「そういえば、ヨーグルトを切らしたな」手に持ったトロピカルフルーツの限りなく赤に近いオレンジ色に走る黄色の縞を追いながら、俺は色々と使い道を想像した。名前を聞くのを忘れたが、普通に切って食べたら甘酸っぱくてうまかった。「明日買って帰るよ」
「任せた」
 ヨスタトはさっきの面倒な話が無事に終わって安堵しているようだった。手元のナイフと果物のつやつやした薄い皮(ダーリンは手先が器用)との間に視線を落とし、ややぼんやりした顔つきで、明日の天気のことなんかを喋りだす。俺はその指先と、シャツの一番上のボタン穴と、今朝少しカミソリ負けしたらしい顎と、機嫌を直したらしくほんのり上向きの口角と、笑い慣れた下瞼と、伏せた睫毛が落とす影とを、順ぐりに眺めた。
「なあ、俺じゃ勃たないか?」
 何の気なしに放った一言のせいで、色男は何か言いたげに口を半開きにし、何も言葉にできずにうめきながら、ほとんど絶望したと表現しても構わないような調子で固まった。正直言って面白かった。おいおいヨスタト、冗談だぜ、そんな青くなんなよ。満足した俺は冷蔵庫にそろそろ古くなりかけの魚があるのを思い出し、無益な会話を切り上げて席を立った。