『俺はさ、ヨスタト。なんとなく寂しいときとかに……あんたが傍に居てくれたら嬉しいな』
その時のジルナクは何でもないようなそぶりでいたが、きっとあれはあいつにとって一世一代の告白だったんだろう。俺は冗談と本音を半々に混ぜて返したが、察しの悪いアイスブルーの瞳にははっきりと不安の影が差したから、冗談を濾して本音だけにしてやった。あいつは馬鹿みたいに目を丸くして、俺を穴のあくほど見つめ、それから……
「間違いありませんか」
この個性的な見てくれじゃ間違えようがない。血の気の失せた肌の上には、バリエーション豊かな痣が数えきれないほどあった。味もそっけもないステンレスの台の上で、腫れた目元を真っ青にしたジルナクは、どことなく寂しげに見えた。辛気臭い小部屋から出た俺がいきさつを尋ねると、シチューの中でふやけたパンと同じくらいやる気のなさそうな巡査が、眠い顔を誤魔化そうともせずに答えてくれた。爪の間に針を刺してやるまでもなく、あったことを包み隠さず順々に喋り出す。安っぽいテレビドラマでよくある不幸だ。あいつが酔ったアホどもに絡まれて、奴らの望むものを渡さなかったからこうなった。太っちょは短いお喋りの最後に、ポケットからちっぽけな金属の輪っかを取り出し、落っことした。俺の手のひらに乗せようとしてしくじったわけだが、面白いほど長く廊下を転がったそれは、最終的には当初の目的地へと辿り着いた。拍子抜けするほど軽く、特に飾り気もない。こんな安物、さっさとくれてやればよかったんだ。“証拠品”を巡査に返し、エレベーターに向かう。辛気くさいお別れとやらに興味はない。さっき確認したばかりだ、もうジルナクは居なかった。
幕引きのタイミングを誤ると、どうもピリオドが打ちづらくなる。俺も終わらせ方を迷っている。エレベーターのドアが開く。間違った階のボタンを押したが、この機種はキャンセルできないらしい。押し直す間に丁度良くドアが閉まる。静かすぎる建物の中、俺は少し寂しくなる。
『だからどこにも行かないでくれよ。行きたい場所があるならさ、連れてってくれよ。それがどんな所でも、俺はあんたについていくよ、いきたいんだ……』