俺はこの世の終わりみたいに(実際そうだった)痛む腹の傷口を押さえ、橋脚のコンクリートにもたれかかった。貨物列車が通りかかると、芯を通って伝わってきた震動が、激痛に弱った頭まで揺らして吐き気がした。ろうそくの火を並べたような川向こうの建物を眺めていると、視線がどんどん下がってくる。いつのまにか膝を曲げて座り込んでいた。 目に入ってくる光が妙にチカチカして眩しい。終わりかもしれない、俺はほとんど用を為していなかった両手を好きなように寛がせた。右手はたくましく茂る雑草の上に落ちかかり、左手は腰骨に引っ掛かってそのままになった。川面に反射する工場の照明は、星と同じくらい遠く見えた。
ヨスタト。
疲れきった俺は文句を言いはじめた。ヨスタト、あんたが俺に黙って消えたりするからこんなことになったんだ、 イズカイアは治安が良かったが、左隣のそのまた隣は少しばかり政情不安、貧しい層の人間ははした金の回収ついでに殺しをやるけだものばかりだ。少し人目につくあんたを追いかけて旅行を始めたが、ろくな結末にならないとどこかで分かってた。あのまま南の島で悠々自適に暮らしていれば今頃、今頃俺は死にかけちゃいなかった。 きっと食後のデザートに凍らせたパイナップルでもかじりながら、くだらないテレビドラマをぼんやり流し見していたことだろう。あんたが居なくなるまでしていたように。
第二の故郷を懐かしむと、郷愁にいよいよ目が霞む。痛みは目の裏側で弾けて積もり、よく分からなくなってきた。くそ、あんたはどこに行ったか分からないのに、俺はこんな知り合いも居ない所で野垂れ死ぬんだ。自分勝手に沸き上がる怒りに弱々しく歯を食いしばろうとした。できなかった。息が上手くできないせいで口が閉じられないからだ。あんたは何をしてるんだ、肉でも食べて笑ってるのか。閉じた瞼の裏が熱くなる。熱くなっただけだった。もう余計に流せる水がない。薄目を開くと、地面が垂直に立っている。俺の頭から遠慮と良識が抜け落ちて、あとには身勝手な思いだけが残る。追いきれなかった背中に投げつける。無責任なやつだ、あんたはきっと俺が明るい太陽の下、幸せに暮らしつづけると思ってる、俺はそいつが許せない……
ヨスタト、畜生、逃げるな。俺と一緒に生きられないなら、俺と一緒に死ね。