帰宅すると、暗くなりかけの部屋の中、同居人は丸めた毛布に腰かけてぼんやりしていた。どうした、と声をかけると、夢現の境をさまよっていた視線がこちらを向いて焦点を結ぶ。
「なんだ、帰ったのか」
「さっきな」と、俺は麻袋を肩から下ろした。買い物に行った帰りだった。ここへ移ってきてからというもの、生活は苦しかった。まともな仕事もなければ住まいも底冷えのする北向きの部屋、壁は少しよろけてぶつかっただけで漆喰の落ちてしまうようなひどい所だ。雨風凌げればそれで十分だろ、と若いこいつは笑ったが、俺はもう少しまともな場所がないかと探し回っていた。もっとも労働の合間を縫っての事で、大して捗ってはいなかった。いい建物から埋まっていくからね、とは同僚の言で、痩せた頬をぼりぼりかきながら足りない歯の隙間に煙草を挟んだその姿は、大昔に好きだったアニメーションの、かなり精巧なパロディに見えた。
「今日はどうだった」
どうだったもこうだったもあるかよ、に続いて返ってきたのは仕事の愚痴と雇い主の悪口、それからちょっとはマシだった出来事もろもろ……俺は節目節目で律儀に相槌を打ってやりながら、大半を聞き流した。こいつも聞いて欲しいと思って話しているというより、ただやることがないから喋っているまでだ。その証拠に、自分から話を中断し、新しい興味の対照を指差して俺に知らせた。
「ヨスタト、ほら」
窓の外にはちょっとした張りだしがあって、何も置いていないそこに、小鳥がいた。胡椒をふったような斑のある砂色の体はいかにも地味だったが、翼の先端の縞模様には見覚えがあるような気がした。
「あれは何て鳥だっけな」
「知るかよ。鳥は鳥だろ」彼は小馬鹿にしたような調子で答えた。「あいつが食えそうなら名前を覚えてやってもいいな」
俺は電気を点けた。裸電球が遠いどこかの振動を伝えて揺れた。爆撃があったのだろう。内乱続きのこの国で孤児は珍しくない。俺はそういう子供の一人と暮らしていた。ふらつく光源に照らされた褐色の顔は細かい傷こそあれ、つるりとしていて綺麗だった。黒髪は清潔さのために刈り込まれ、痩せた手足は砂埃にまみれていた。そして緑がかった薄茶の瞳は、いつも不必要な鋭さで俺を射すくめようとする。また明かりが揺れた。遠いどこか、というのは心理的な距離の話だ。物理的にはたった一ブロック先、その程度の……