観念的な死骸の話

 これは俺が初めて仕事を見つけてきたときに貰った安物のスキットル。これは一緒に暮らしはじめて最初の誕生日に貰ったピアス。これは大学に受かったときに貰った時計。これはその年の誕生日に貰った上等なスキットル。これはフィールド用の帽子、これは変な柄の傘、これは財布、これは……
 ガレージの床を西日が腐食する。俺はいちばん左に置いた傷だらけのスキットルに振り下ろせなかった金づちを手に、その場で膝をついた。持っていられないほど重たくなった鎚の柄を、コンクリートが優しく受けとめた。空いた両手は顔を覆って、落ちる涙の滴を集めた。全部壊してしまうつもりだった。俺にはどうしてもできない、思い出ばかり鮮やかで、そうして、もうどこにも彼はいないのだ。ヨスタトが出ていったあの日既に壊れてしまっていた生活の残骸が、錆びついた時の上に転がっている。