俺は実に四十三日ぶりのヨスタトを、じっくりと味わった。といってもなんのことはない、ソファに並んで興味もない料理番組を流しっぱなしにしているだけだ。でも俺はそれで特に不満はなかった。彼は俺が女みたいに(差別的表現)べたべたするのを許したし、こうして頭を預けた肩のあたりは懐かしい煙草の匂いが漂っていて、まったくもって具合が良かった。俺はこの匂いが普段より濃い気がするのを喜んでいる。それはなにも小うるさい嫌煙家が家に居らずのびのびできたというだけでなく、こいつも俺がいなくて寂しかったんじゃないかと都合よく勘違いできるからだ。俺は心地よく温かいヨスタトの肩に頬を擦り寄せ、ため息をついた。幸せだ。
「帰ったらあんたがいないんじゃないかと思ったよ」
だが口をついて出てきたのはこんな文句だった。冗談でも恨み言でもなく、率直な感想の調子だ。俺は内心驚いているのを悟られまいとして、料理番組の説明に集中した。下ごしらえの終わったタラをソテーします、ソテーします、ソテーします……
「どうして」
ヨスタトからの応答がこれだ。こいつは最近、問いかけにシンプルなフレーズを使うようになった。生徒に言い訳させないためのテクニックだろう。昔はもっと回りくどくて、無駄が多かった。余計なことを言わせるためだ、喋りすぎれば相手もぼろを出す。今はそんな小細工はいらない。
「別に。ただ何となくそんな気がしただけだよ」
と答えながら、俺はアシスタントが水菜を添えるやり方にケチをつけたくなった。仮にも全国放送なんだから皿からこぼれたのを乗せるなとか、そんな広げたら魚のスペースがなくなるだろとか、いちゃもんだ。上手いもので、雑然として見えた皿はソテーになったタラが加わった瞬間にまとまって、完璧な見た目になった。恐らくは予定通りに。
「お前がいなくて寂しかった」
ヨスタトがそう言うのを聞いて、俺はむしょうに泣きたくなった。嬉しいんでも悲しいんでもなく、多分切なさのせいで。これは嘘の話かもしれない。俺たちは誰かのついた優しい嘘の中で生きている。適切な返事が見つからなかった。ピカピカのキッチンで、シェフとアシスタントが笑っている。