Sound of the Gunshot

 発つ準備をすっかり整えてしまってから家に戻ると、リビングの床の上でジルナクが横になっていた。横になっていた、などというのは臆病な表現で、詳細はこのようになる。仰向けになったジルナクの手足はだらしなく力を失い投げ出されていて、ややそむけた形に傾いた顔の上には、普段よく浮かべるどことなくニヒルな笑みや、俺のチケットを見つけた時の激しい苦悩、話し合いの末に得た諦感がもたらした静かな悲しみ、そのいずれも現れてはいなかった。ただ無関心なペールブルーの瞳が、瞬きもせずこの世の果てを見つめていた。情動の修飾がないぶん、造形そのものの具合がよく分かる。まだ幼げな甘さの混じる精悍な鋭い面立ちは、その半分を覆う火傷の痕に少しも損なわれてはいなかった。それどころか、むしろこの傷痕が一番美しいとさえ思えた。そのケロイドが指先を伸ばしたあたり、こめかみのあたりに小さな穴がひとつ開いている。そこから流れ出した血液が、ほとんど白に近い彼の髪へ、それからこの間買ってやったばかりのシャツへと染み込んで、残りは床板の上で好きなように……もとい、物理法則の命じるままに広がって、そこかしこで凝固していた。シャツの汚れはどんなに洗っても落ちないだろう。新しいものを買うか漂白剤を買うか迷いかけ、俺は苦笑した。  この光景には既視感があったが、それは自分の記憶から呼び起こされたものというより、誰かの夢の話を聞いて想像したものという感じがした。少なくとも、もうここには住めない。当初の予定通り出発すべきだろう。相棒は死んで、俺の休暇も終わりになった。