ヨスタト! 俺は庭に向かって呼びかけた。返事はない。当然だ、誰もいないのだから。気づけば出会った頃の彼の年齢と並んでいる。ヨスタト、俺はまたしくじったよ、彼女、花なんか贈るキザ男は好きじゃないんだってさ……そんなわけで余りの花束を分けて花瓶に活けてみたんだ、悪くないだろ? 俺はいくつも並べた花瓶を家のあちこちに飾った。そのうちひとつを寝室に持っていって、うっかり転んで割ってしまった。手首に刺さった破片を引き抜くと、面白いほど血が溢れだした。俺は傷を押さえてうずくまる。くそ、痛い。ヨスタト、痛い。痛い……
俺がヨスタトの残り香を探していると、あっけらかんとした昼下がりの明るさが分厚い雲に遮られ、あたり一帯がその大きな影の中に入った。それで許されたような気になって、俺はヨスタトが使っていた枕に拳を振り下ろす。何度も何度も振り下ろす、振り下ろしていると移り気な影は流れ去り、太陽が姿を見せる。明るくなるから復讐はやめる。今日はそこそこ雲がある。影を待っている。
夜になると寂しくて仕方ない。人ひとりの温度が欠けただけでこんなにも部屋を寒くするとは、夢にも思っちゃいなかった。ましてやここはイズカイア、常夏の楽園だから。俺はシーツを引っ掻いた。呻いてもヨスタトは来てくれない。俺を放ってどこかに行った。腕をかきむしる。かさぶたが剥がれて血が滲み、痛くて涙も滲んできた。それでもヨスタトは来てくれない。馬鹿だな、ヨスタトは居ないんだから来ちゃくれない。夜を薄めた藍色が、身体に重くのしかかる。こんな色で窒息できる俺は幸せ者かもしれない。綺麗だ、この国の夜は暖かくて綺麗だ、あんたの灰色と同じくらいに……