入り江に寄せる波は、眠たげに凪いでいる。楽園の午後はいつもこう、角のとれた岩場に座る男ふたりは、透明度の高い冴えた碧色の水面を、肩寄せあって見つめていた。
「おい、なんであんたばっかり釣れるんだ?」
と片方の男、白髪頭と生白い肌に火傷の痕も鮮やかなジルナク、もて余すし気味に伸びた手足を縮こめて、魚のかからない自分の釣竿を、恨めしげに見つめている。それを横目にもう片方の男、義足も自前の足もほどよく脱力しお気楽な姿勢に憩うヨスタト、いましがた釣り上げたばかりの獲物を、軽やかにバケツへ放り込みこう言った。
「お前、ちょっと下りていって自分の顔を見てみろよ。そんな風にギラギラしてるとな、向こうにだって分かるんだぞ。今からお前を捕まえてやるぞって気配が漏れすぎだ」
ヨスタトはまた浮きが震えるのを見て、器用に竿の先を跳ねあげた。それから手元に縞模様の魚を引き寄せて、弟分へ意味ありげに笑いかけた。ジルナクは不満げに唇を尖らせたあと、目の前の笑顔に輪をかけて意味深に、なにやらにやにややりだした。
「ということはあんたもさ、俺がギラギラしてるから駄目なのか?」
にやにやついでのジルナクが、鼻先が触れあう距離まで詰め寄ると、ヨスタトはやや面食らってのけぞった。その拍子に、さっきの縞模様がこれ幸いと、針を逃れて海へと落ちる。
「あっ、くそ、晩飯が」
「俺は魚なんかよりこっちがいいな」
入り江に寄せる波は碧、ヨスタトは思った、いくらなんでもこいつに甘くしすぎたな。一方ジルナクの方はというと、こいつの唇は柔らかくて甘いなあ、なんてことを、ただ満足げに考えているのだった。