「兄貴は怖くないのか?」
「何が?」
ラムノクは窓際で、俺が壊したラジオをいじくっている。手先は器用だけど直しかたなんて知らないから、ただネジを外したり配線を引っ掻き回すだけだ。兄貴はこういう無意味なことをするのが昔から好きだった。
「人を撃ったり、撃たれたりするのがだよ」
兄貴は笑った。
「怖いさ。それを怖がらないやつはみんな死ぬ」
寂しい笑みだった。俺のより少し薄い、ほとんど灰色に見える瞳には、物騒な話にはつきものの陰もなく、ただ俺の知っている優しい光が揺れている。
「じゃあさ……どうしても怖いときはどうするんだよ」
「お前、なにか悩みでもあんのか?」
こうやってきっかけを見つけて世話を焼こうとするのは、俺が五歳の頃からまったく変わらない。ひとまわり離れた兄貴にとって、たぶん俺はほとんど子供みたいに思われてるんだろう。俺は返事のかわりにしかめ面をつくった。兄貴はそれを見てまた朗らかに声を立てた。
「ジルナク、怖くてたまらない、足がすくんで動けないって時はな、歌でも歌っとけ」
「歌?」
「そう、できるだけ明るいやつを。『花かんむりの娘と踊った』とかな。一緒に歌うか? さん、に、いち……」
* * *
スイッチ片手に乗り込んできた爆弾男は、議場の入り口でぐるりとあたりを見回した。気味の悪いケロイドが顔の右半分にへばりついている。また賃上げ要求じゃないだろうな。あの時は警備員が止めたが、今度の担当は無能だったらしい。もっと給料を下げてやりゃあいいんだ。男は何かをためらっている様子だった。言いたいことがあるならもっと真ん中に出てこい、怒鳴り付けたくなる気持ちをこらえる。ちゃちなパイプ爆弾がはじけたって大したことはなさそうだが、ここからだと近すぎる。万が一ということもありそうだ。畜生、こうなると長いぞ。夕飯を予約してるんだ、早いとこ撃ち殺せ。いらだちに奥歯を噛み締めていると、迷惑な男が何か口ずさむのが聞こえてきた。
花かんむりの娘と踊った、めざめたばかりの若芽を踏んで、ゆみとりぐさの花びらと、うすくれないの頬の色。はだしのつま先濡らす朝露、くるくる回るひと夏の夢。花かんむりの娘と踊った……