「ヨスタト、もう終わりにしないか」
何を? と彼は不思議そうな顔で手を止めた。指の間に火を着けたばかりの煙草があって、止まっているぶんだけせっかくの煙が無駄になっていた。外が雪で明るいので、この部屋にも月や星の恩恵がこれでもかと侵入している。闇というほど濃くもない暗がりで、俺たちは体温を分けあったばかりだった。
「まずあんたが俺を当局につき出すだろ。そしたら俺はあんたを売るよ。どうだ、面白くないか」
ありきたりだな、と小さく呟いて、彼は肺いっぱいに煙を吸い込み、まるでそれを息の流路に染み込ませでもするように、時間をかけて少しずつ吐き出した。俺は喫煙の習慣を快くは思っていない。緩やかな自殺を試みる男の口づけは、どんなロマンチックな台詞の後でも苦かった。こいつは俺のために生きたくもない続きを生きていてくれるくせに、俺の頼みは聞いちゃくれない。煙のせいでいがらっぽくなった喉を咳払いで誤魔化して、もう一度頭からやり直す。
「終わりにしないか。あんたに未練がないのは分かりきってる。俺もない。なあ、終わりにしよう、終わりがない話ってのはさ、それは駄作だよ……」
本当は未練たらたらだ、終わりのない話も嫌いじゃない。俺はじいさんになりたかった。できれば鳥の写真を集めながら。こいつは違う。それが何よりやるせない。