失礼なご想像

 ジルナク、俺がお前にどうして欲しいかわかるだろ? 戦場から帰ってきたばかりの狙撃手は、俺のよく知る陽気な兄の顔ではなく、人殺しの顔で俺を見た。きっとまた子供を撃ったんだろう。冷めた視線に後ろめたさはない。両親は朝から出かけていた。ハードな環境から戻ってきた息子の短い休暇をせめて故郷の味で満たしてやろうと張り切っていて、作りすぎのごちそうもまだ足りないと、食材を買い足しに行ったのだ。彼は静かになった部屋で、沈黙の中俺を手招きした。そのまなざしは見知らぬ他人のもののようで恐ろしく、シャツのボタンを外す手が震えた。戦争は人を変えるというが、俺はその意味をよく知っていた。女を買う代わりに十五歳の弟の身体を……
「そういうことはなかった」
「本当か?」
「あのな」俺はかたわらに寝そべる男のむき出しの脇腹を強めにつついた。「いくらあんたでも失礼すぎるぞ」
「くそ、そういうのはやめろ。今度やったらもう二度と寝てやらないからな……お前、前に俺が兄貴に似てるとかなんとか言ってただろ。普通兄貴に似てる男とこういうことはしない」
「はあ、ヨスタト……呆れたぜ。元敏腕エージェントも完全になまったな。それとこれとは別なんだよ。あんたのめちゃくちゃに乱れた姿を毎晩でも見たいってのと兄貴は関係ない」
「おい、今なんて言った?」
「兄貴のことは関係……」
「違う、その前だよ。俺が……」
「あんたのめちゃくちゃに乱れた姿を見たい」
「見せた事ないぞ」
「ついさっきそうだった」
「このクソ野郎、捏造もたいがいにしろ。自分の事を棚にあげてよく言う、お前の余裕のかけらもない必死な様子を見せてやりたい」
「じゃあ次はビデオでも撮るか? 俺は別にいいよ。あんたの言うとおりだったとして、まあそいつはどうでもいい。あんたの映ってるシーンだけ切り出せば出先でもおかずに困らない」
「×××」ヨスタトは普段なら口にしないようなかなり汚い言葉を使った。「最近のお前は品がなさすぎる」
「おいおい、自分こそお口が悪くってよ、ダーリン……」
 俺は言い返そうとするヨスタトを少し黙らせてから、露骨な手つきでさっきつついた脇腹を撫でた。引き締まったしなやかな体つきも、呆れたように眉を寄せる涼やかに整った顔も、兄貴とは似ても似つかない。そういう所じゃなく、なんだかんだ文句をつけても結局我慢の足りない弟分を甘やかしてやるあたり、そこがそっくりなんだ。しかしまあ、今わざわざそれを伝える必要はなかった。やる気になったらしいヨスタトの興を削ぐのも嫌だったし、その辺でくたばってる珍説が息を吹き返すのもごめんだった。何より俺はヨスタトの濡れた舌の温度と背骨を這う指先の感触に夢中で、他の一切は放り投げたい気分だった。