ヨスタト! 雪だるまつくろうぜ。俺は大雪の翌日がからりと透き通った晴天だと、精神的に十歳の子供になる。同居人は毛布にしっかりくるまって、寝ぼけ眼をぱちくりさせた。なんだって? 俺はこの年寄りのふくろうにもう一度誘い文句を繰り返してやった。一音一音が起き抜けの模糊とした意識に染み渡ると、まどろんでいた表情が途端にしゃっきりし、驚愕のまま眉間に深い皺が寄る。そんなの一人でやれよ! おいおい、でかい声出すなよ、ヨスタト……あんたも少しは運動しないと膝が錆び付くぜ、と返事すれば、あのな、冷やしたほうが痛むんだよ、だいいち雪は水だろ、錆びるるならそのせいだ……とかなんとか、ぶつぶつ言いながら頭まで布団をかぶって、黙りこんでしまった。このでかい蛹をなんとか羽化させてやらなきゃいけないな。俺はいちばん表層の羽毛布団の端を持ち上げて隙間に入り込んだ。巻き込んだ毛布やなにやらを雑な寄生虫よろしく無理やりよけて侵入してくる俺に対し、哀れな宿主は激しく抵抗した。おいふざけんな、お前頭がおかしいぞ、ジルナク、よせよ、よせったら。布団は一晩ヨスタトをくるんでいたから、いい具合に温まっている。俺はしばし静かになった。ヨスタトの匂いがする。うまく表現できないが、上等な革靴と黒土、毎晩淹れてくれる紅茶、そこにほんのり煙草の煙が混じり、ほのかに苦みのある、だが俺にとっちゃそこそこ甘い香りだ。使ってる石鹸は同じはずなのに(こいつがこっそり高級品を使ってなきゃの話だが)、俺のとはえらい差だ。修理工場でつけてきたグリースと、処理業者で染ませてた廃油の臭い。俺は幸い動物的悪臭には縁遠いものの、どんなに洗っても妙な化学臭がうっすら残ってしまっている。くそ、こいつの仕事はなんだっけ。工場だとかいう話だったが、きっと目玉の飛び出るほど高い靴墨かなにか作ってるんだろう。俺はこの休憩で生まれた相手の油断を利用して、最後の砦たる薄いケットをむんずと掴み、軽やかとは言いづらい身のこなしで起き上がると、体全体のびあがりながら、容赦なくそれを剥ぎ取った。周りに残った布地をかき集めながらも、ヨスタトは流れ込んできた冷気に身を震わせていた。くそったれ、なんだってんだ、と叫ぶ彼を再び寒さに晒しつつ、俺は高らかに宣言した。朝だぞ!