部屋が寒いなら

 「おい、ヨスタト!」
 俺は呼びかけた、というよりわめきたてた。ヨスタトはうるさそうに顔をしかめ、だが律儀に体までこちらに向けて、毛糸の靴下の中で足の指をもぞもぞさせた。かわいい仕草だ。厚手の上着を何枚も重ねて着ぶくれた彼の姿はスマートさとは無縁だったが、お洒落さんらしく色の組み合わせはしっかり考慮されているらしかった。それに毛玉のひとつもない、俺の穴あきセーターとは大違いだ。
「なあ、そろそろ暖房をつけようぜ。凍死しちまう」わざとらしく震えてみせても、仏頂面はそのままだ。「結構まとまった金が入ったんだ。ちょっとあったまるくらいの贅沢は許されるだろ」
 けちな男は椅子の上で腕組みし、また足の指をもぞもぞやった。何度見てもかわいい。俺は一人がけのソファの上でこれ見よがしに丸まった。この間拾ってきたばかりのソファは以外と座り心地がよく、俺はこの場所が気に入っている。やりきれないほど寒くなきゃもっといい。
「なあなあ、ちょっと部屋の空気を暖めるだけでいいんだよ。あんただって寒いだろ?」
 ヨスタトはやおら立ち上がり、俺の前までやってくると、ソファと俺との隙間へ無理やり体を押し込んだ。押し込めるわけがない、ヨスタトは半分俺の膝に座ることになった。重いが悪い感触じゃない。肩に腕まで回されて、俺はますます機嫌がよくなった。
「ヨスタト」
「寒けりゃこうすればいい。鳥は体温が高いだろ」
 俺は倹約家の屁理屈に負けた。今日も暖房なしでいい。