「わっは! 長い旅じゃないか!」と私の婚約者は口を大きく開けて笑った。天幕の中は彼の笑い声でいっぱいになり、私はつられて陽気になったらしい旅人の盃をすかさず満たしてにこりとした。顔の右側を火傷の痕に覆われた幽鬼のように青白いその人は、注がれた酒を礼儀正しく一息に飲み干した。ティズガマヤ、私の彼は一向に酔いつぶれる気配のない彼の顔色を見てまた一層朗らかになる。これほど楽しげなのは久しぶりで、私は嬉しくなった。うちの羊の三回目の死産は彼の持って生まれた明朗な気質を台無しにしていたけれど、これでやっと結婚式の支度を始められそうだった。旅人は草いきれと乱れわく雲の境から来て、私たちに幸福の帯の端をしっかと掴ませ、必要なもてなしをさせてくれた。きっと今孕んである子羊は、つつがなく産み落とされることだろう。
「ティレグマイ、旅の人は噛みきるのに苦労しているようだから、切り分けてやりなさい。もう少し小さく」と、夫になる人は私の盃に、旅人にあげたものとは違う酒を注いだ。曇りなく透き通ったそれは、この人がわざわざ街まで行って馬と交換にしてきたものだった。私はそれをひと啜りしたあと、彼の言うとおりにした。ティズガマヤは旅人と耳慣れぬ言葉で話し、時折楽しげに目を細めた。私は弧を描き開き閉じる旅人の唇の端から端までの長さを目測し、一口より少し小さめになるように肉を切った。そしてまた話が一段落したのを見計らい、客用の盃をとろみのある乳白色で満たした。するとそれを飲んだ旅人の横顔には哀しみが差した。つがいを喪った鷹を思わせる憂いを帯びた鋭さは、色素の乏しいこの人によく似合っている。私の優しい人も、神妙な面持ちになって彼の話を聞いている。はじめにやつれたような微笑みが、それから苦痛の色がありありと浮かび、旅人はくずおれるようにして泣き出してしまった。ティズガマヤはご馳走の皿をまたいで旅人の隣へ移り、包み込むように抱いて彼を慰めた。私も二つの盃をまたぎ、夫となる人と同じようにした。遠くから来た人の涙はあとからあとからその頬を流れ、私たちの服やクッションへ染み込んでいった。彼は嗚咽まじりにある単語を繰り返していた。それがとても甘い囀りだったので、私は場違いにうっとりした。それが何を意味するかは分からない。私とティズガマヤは手に手を重ね、旅人の丸めた背を撫でた。震えている。この人にとって「ヨスタト」は何より尊いものなのだろう。そして私の愛する人の大きな手のぬくもりは、きっと私にとっての「ヨスタト」なのだろう……