旅の終わりのバリエーション

 俺はついにヨスタトを見つけてしまった。つい半日前に鳥飼いの女に聞いた「ああ、それなら知ってるよ。黒髪に灰色の目に義足の男、私が鼠を安くしてやったのに断った男さね。ランタ=ラルペに泊まってるよ」はまだみずみずしく鮮度を保った真実で、果たして最上階のラウンジの一角に彼は居た。窓際の一人席、外を眺めて黄昏る背中はよく知るヨスタトの姿そのままだった。もちろん服はかなり気合いの入った仕立てのスーツで、あの頃のラフな格好とは程遠かった。俺は

1:ヨスタトの形に切り取られた街の灯を眩しく眺めた。
 星を撒いたような美しい都市の夜景は、俺とヨスタトの距離そのもののように思えた。星に手は届かない。俺は飛行士になって、あの幾億の光の粒のうちに、降り立てるものを探している。夜を彩るのは月を覗けば恒星だけで、触れる距離には人の身など燃え尽きてしまう筈なのに。ヨスタトはカクテルグラスを手に取り、自分の陰に隠したあと、同じところにそれを戻した。黄金色の液体が、ほんのわずかに減っている。ゲルの中で飲んだとろりとした乳の酒を思い出す。俺は多分、ヨスタトに会いたかった。一目会いたかった。同時に、ヨスタトを見つけたくなかった。見られたくなかった。かわいそうな片輪にとって、顔の爛れたニレ人はまさに、追いかけてくるあの日だった。きっと俺に向けるまなざしには諦めが混じるだろう。そして俺たちの使ったどの言語より雄弁に語るのだ、お前のことは置いていったのに、と。
 降りていくエレベーターの静かな駆動音には、人知れず呼吸する街路樹の優しさがあった。もしも私が鳥ならば、と陳腐なフレーズが頭に浮かぶ。ガラスに写った自分の醜さに、やる気のない笑みが出る。ジルネ、ジルナク、お前は本当に重かった、枝を折ってしまうほど……

2:自分が分からなくなった。
 俺は自分が置いていかれたことを決して認めたくはなかったし、もう散々うんざりさせたヨスタトにこれ以上の迷惑はかけたくなかった。一方で、こうして手の届く距離(正確にはそれまでに十数歩が必要)にヨスタトが居ることを喜んでもいたし、単純にまた彼の灰色の瞳が見たくもあった。どうすればいい、俺はどうすれば。贅沢な香りが漂い華やかに装う男女が囁き交わすこの場所で、俺はみすぼらしい身なりのまま突っ立って何もできずにいる。ヨスタト、俺はあんたが大事だよ。でもあんたにとって俺が大事かどうか分からないから、次の一歩がどの旅路より遠いんだ。