まだ明るいのにこれとは

「なにを気取ってるんだ、こういう事柄に関してだとわたしは処女ヴァージンだが、きみはそうではないだろう」
「やめてくれ、そんな……まだ明るいのにこれとは」
「日がどこにあるかは関係ない。それともなんだ、こんな貧相な獲物は嫌か? そうだろうとも、良いものを食ってはいるが大して肥えちゃいない、男のように肉もなければ女のように脂肪もない、食うところが少ない痩せ烏! だがそうやって顔を背けるなど、友人に失礼だとは思わないのか!」
「いいからボタンをとめてくれ、わたしは別に餓えてなどいないよ」
「わたしは本気だぞ」
「本気がなんだ、人がいらないと言っているものを押し付けようとして、きみはたまに横暴だ」
「では物欲しそうな目をするのはやめろ」
「していない」
「いいや、しているとも。わたしの友人にもっとおいしそうな連中は山ほどいるが、きみは彼や彼女には食指が動かないらしい、だがわたしには露骨に向けているじゃないか、蛇の目、猫の目、狐の目……はは、今更瞑ったところでわたしを誤魔化せるものか。そら、開くぞ」
「きみは本当に横暴だ。瞳が乾いてしまう」
「頸も痛いか?」
「痛い」
「背中も?」
「床の上だ、痛い」
「少しは素直になってきたじゃないか。われわれは奴隷さ、飲み食いや性交、金に名誉に地位に権力、それから他人を支配したいという欲求の。首枷の痛みはさておき彼らはそれほど悪い主人じゃない、享楽的に過ごしたらいい。きっときみのお気に召す」
 わたしが手首に牙を立てて滑らせれば、傷ついた皮膚の間から豊かに滴り落ちる、赤い血が。失えば死ぬし、外に出れば腐るだけ。わが血ながら随分汚らしい色できみを汚す。自分を組み敷くわたしの腕を軽く叩いて、きみは言う。
「いいかげん苦しくなってきた。どいてくれ。それに、すぐに洗えば染みも残らない」
「興ざめだな。きみはたまにからかい甲斐のないやつになる」
「わたしはつまらない男だよ」
 大人しくどいてやると、きみはのっそりと立ち上がって部屋を出ていった。多分メイドを頼らずに、自分の手で洗うのだろう。その背中を眺めながら、かぎ裂きを繕うのと同じ要領で、用のない創を閉じた。