きみは珍しく───わたしが来てからは初めて───荒れていた。馬車の中から運び出されてきた前後不覚の酔っぱらいを引き受け介抱しながら、わたしは内心、いや……実際に苦笑した。彼はわけの分からない物語ふうの台詞をこぼし、それから普段に輪をかけてひどい調子外れの歌を口ずさんだ、というよりわめきたてたというほうが近いくらいの声量でそれを披露し、もう床についていた数人の眠りを妨げた(この屋敷では主人の帰りを待たずに灯を消すことが許されている、眠りは明くる日の仕事を円滑に進めるための責務だった)。けだものじみた歯を並べ冒涜の文句とともに他人を煙にまく悪趣味な放蕩貴族、身にまとう業と香りの重さに比して存外に細身な彼を支えながら、どうにか寝室までたどり着く。持ち前の軽やかさはとうに酩酊と引き換えにした男の足どりは、赤子の拙さと老人の心許なさを足して鉛で綴じたようなありさまで、わたしは一度ならず廊下の壁に肩をぶつける羽目になった。だが酔っぱらいというのは調子のいいもので、手を焼かせる割に恩を忘れ去り、省みることもしないのだ。明日には彼自身の頭痛のなかで、わたしに与えた痛みのほうはすっかり消えてしまっていることだろう。彼の讃美歌が三度同じ音を外すのを聞きながら、わたしは部屋の扉を開け放ち、この壊れたオルゴールを中に収めてやった。戸を閉めている間に歌をやめたあひるの子は、おぼつかないステップを踏みながら上着を放り出し、倒れ込むようにして寝台に横たわった。今日は歌ってやらなくても平気だろうが、毛布もかけずに夜を過ごせば風邪をひく、それに靴も両足に嵌まったままだった。わたしはこの放埒者が眠るのになるべく快適なように諸々を整え、それから少し迷って、慣例通り枕元に座ってやることにした。わたしが腰かけると彼は呻きながらシーツを掴み、何かを求めるようにあたりをまさぐった。その最中もうわごとを呟いているようだったが、わたしの耳に届く頃にはほとんど崩れて意味を成さなかった。 だいたいの場合、この無欲な男が欲しがるものは決まっている。わたしは手をのべてやった。彼のわずかに歪んだ指は目当てのものを捕まえ、やりすぎなほどの勢いで引き寄せた。冷えたわたしの手のひらは具合がいいようで、彼は熱心に頬ずりした、わたしが気恥ずかしくなるほどに。結ったままの髪を解いてやろうとしたとき、吐息に混じてひとつの言葉が繰り返されているのに気づいた。
母上。