散髪

「本当にいいのか?」
 これで三度目だ。彼の指は鋏の持ち手で凍りつき、他方の手は私の髪のひと房を摘まんでは離し、摘まんでは離し、を繰り返していた。
「その問いはわたしに向けたものか? それともきみの決心に必要なだけか? 女の髪を切るのとは違うし、わたしにはかつらが必要な地位もない。それでも惜しいなら切ってしまったあとで束ねて持っていくといい」
 冗談めかしたわたしの答えに、彼は鏡の中でまた刃の切っ先をためらわせ、四度目の念押しの代わりにそれを下ろしてしまった。
「だめだ、わたしにはできない。だいいち人の髪を切った経験もない」
「好きなようにしてくれ、できればきみと揃いに。いつも自分で整えているだろう、わたしはここでじっとしているから簡単だ」
「簡単なものか」彼は溜息をひとつ零し、傍らの小机に鋏を置いた。「荷が重い」
「別に刈り上げたって構わない」
「わたしが構う。きみの──その顔はよしてくれ、なんて顔をするんだ。こら、悪い子だ。まったく、きみはすぐそうやって……」