「アーサー、きみの遊び仲間のことなのだけれどね」
きみはいつになくきまりが悪そうだった。わたしはその憂いを帯びたまなざしを受け止めて、彼を抱く腕に力をこめた。何でも言うといい、きみの言葉ならなんだって心地いい。
「よく考えてみると、あれは……健全な友だちづきあいとはいえないのではないだろうか」
「きみとわたしのように?」
わたしの膝に腰かけ、胸に身をあずけている男は一層きまり悪そうにした。それはちょうど……造形の美しさはきみのそれと比ぶべくもないが、奥歯が痛いときのジョゼフがこんな顔をする。わたしが抜いてやろうと約束してから十日が過ぎている。
「わたしたちは……」短い髪をすくように撫でてやると、きみの目もとに昼下がりの眠気に似たけだるさが漂った。いい香りだ、遠い日に訪れた裏庭の春が記憶の底で息を吹き返す。手の内にこごめた小鳥は、やがて諦めたように微笑んだ。「わたしたちのつきあいは端から見れば健全とはいえないだろうね」
「そうさ。きみはもうわたしが口づけても怒らない」
「怒ったことは一度もないよ。少し困っただけだ」
「ここまでしても──」今度のは“触れるだけ”とは程遠い。わたしの悪戯はまどろんでいた彼の四肢をわずかにこわばらせた。「きみは怒らない……驚きはするがね。どうした? 暑そうだな、汗ばんできたようだ……」
蟻が砂糖水を吸うように、わたしはにわかに熱を帯びた肌に唇を這わせた。ほのかに甘く感じるのは、わたしがこの青白い肌をキャンディと勘違いしているからだろう。これでもきみは怒らない。耳の凹凸を舌先で確かめて、細い黒髪の先を食み、シャツ越しに背骨を辿っても、きみは咎めない。
「アーサー、いい加減にしてくれ……」
まあ当然のことながらそこまですれば咎めるに決まっているが、それでもわたしを叱らない。寛容な司祭は顔を抑えてかたく目を閉じていた、わたしがさっきまで味わっていた耳のへりからうなじにかけて、上等な絹を思わせる柔い肌は、鮮やかに色づいている。勿論頬は言うまでもない、こういうのをばら色というのだ。なんと初々しいことだろう、愛くるしいとさえ思う、わたしの悪い友だちならこうはいかない。
「わたしの遊び仲間が気に入らないか? あれらはあれらで結構使いでがある。人脈というのはいざというとき頼りないが、水をやっておいても損はない。わたしは減るものでもないし、いい取引さ。他の点できみが嫌がりそうなことというと……案ずるなかれ、わたしはきみ相手でないと楽しくない」
「そういうことではないんだよ」彼はぼんやりした手つきでわたしの左手を撫でた。「もういい、とても付き合っていられない。きみは悪魔かもしれない、こんな手をして、そんな尖った歯を並べて……」
彼はわたしの笑みにつられ、痩せた肩を震わせた。
「わたしたちはお似合いだね」