母は慈愛をもって

 彼は時々子供のようになる。といっても普段から人を振り回し楽しんでいるいたずら坊主ではあるが、それはそれとして、今日のような日はあの貴族的な傍若無人で人を食ったような態度はなりを潜め、ただわたしの温もりと優しさだけを求めてすり寄るその姿は母に甘える幼児そのものなのだ。わたしは彼が頭をもたせかけた肩口から流れ下る絹のような長い髪の先をもてあそび、染みひとつないなめらかな頬を撫でながら、素朴な数え歌や童謡の類いを口ずさんだ。この美しい奇異なるものオディティは何でもわたしの好きなようにさせ、ひたむきにわたしの与えるもの全てを求めているのだった。