きみはこういう時なにも言わない。黙っている。口を開けば定義せざるをえず、大事に守ってきた寧静が灰に変わってしまうことが分かっているから。純黒の夜に鈴なりの星を植えてくれた人に、どうしてこんな残酷な仕打ちができるだろう、わたしはきみを傷つけてばかりいる。それだのに、きみは呪わしいだけのはたものを背負って丘を登る、石を投げ込む人すら居ない寂寞の中を。どうしようもない惨めなわたしは、青い線条をいくつも透かした華奢な腕を噛んで血を流させる、飽きもせず。きみを許すつもりがない。この小さな、誰の心も満たさない独りよがりの復讐をきみは受け入れる。黙して語らず、非難せぬ一方で無意味な報復を弁護してやる気もない。引き結ばれた唇はどんな罪にも染まらない。この恥知らずの野犬がいかなる罪に身を濡らしても、祈りを唱えぬ動物にかわり、永遠の安息を神に乞うてくれるのだ。
獣は自らが携えた剣の鋭さを知っている、どんな力で押し込めば相手の生命に食い込むかよくわきまえているわけだ。だからこの場違いな牙も、死を呼び込まぬ程度に創を刻む。綺麗だった膚の上はいまや古い傷と新しい傷とが場所を取り合って喧嘩するほどになり、そうしてまた新しいものが加えられていく、どこに付けてもきみは怒らない。我儘な子供は夜更けに目を覚まし、わたしはきみに血を流させる、飽きもせず。飽きるほど。