ラファエル・クラークソンが歯の疼きで目を覚ましたのは十一月も半ばの午前四時、隣室の住人が身支度をしはじめるくらいの頃合いだった。この隣人は彼女の職業にはありがちな変わり者で、芸術の為に朝靄を必要としているらしかった。芸術の中身は知らなかった、知らなかったが深く知ろうという気もなかった。それは彼女も同じで、しかし同じ表現者のよしみかある程度親しさはあり、互いの仕事には無関心でいながらも時折二人で味の濃い中華を食べた。中華! 彼はこの楽しい会合を振り返りながら、中華でなく何か固いものが食べたいと思った。矯正器具を着けていた時と似ている、苛立つほどむず痒く、骨まで痛むのに根っこまでいじめ抜きたいような感覚が、無闇と尖った歯の芯のところから滲み出している。両親は息子の歯列を、少なくとも並びだけはまともにしてやっていた。両親、兄弟、生まれ育った家。犬が跳ね回っている。そういえばあのベルジャン・シェパードは子犬の頃にこういう疼きに悩まされたようだった、それを癒やしてやっていたらしい妹のお気に入りのテディベアの目、今ここにあればいいのに。彼はこのように思いを巡らせるうち、何かかじりたいのだと気づくのに時間は要さなかった、それは始めからまったく明らかで、もっと言えばかじりたいのも何かではなく特定の──号泣する妹に叩かれていたいたずら坊主がそうであったように、この不快な疼きを鎮めるのに一番良いものも既に分かっていた。
クリス、君をかじってもいい? 歯の根っこがむずむずするんだよ。
馬鹿馬鹿しい。しかめ面のまま毛布をかぶって寝返りをうつ。だが頭から眠気は溶け去り、一度つついたゾーイトロープは止まりそうな様子もなかった。当然の事ながら着替えを恥ずかしがるような間柄ではなく、色も形もどういうものか知っている、水でも溜められそうな鎖骨とその横のくぼみ、関節が薄くなめらかな皮膚に覆われてなおはっきりと見て取れた肩のあたり……それを言いだすと痩せ型の彼はどこもかしこも骨ばっていて、かじりがいはきっと文句なし、本当においしそうだった。