眠りの岸辺

 わたしはだしぬけに、彼の寝ている姿が見たくてたまらなくなった。厚手のカーテンの裏からにじみだすけだるい朝日の上澄みではなく、星明かりの下、時おり夢に惑う眼玉を容れた薄い瞼、淑やかに縁どる睫毛、凛々しく引かれた眉の間から降り下る鼻梁の堅い稜線を追い、いつかわたしの耳を食んだ唇へ、それからどことなくやさしい線を描いた細い顎の先から喉元に視線を走らせ、あらわになった骨のかたちをひとつひとつ慈しみながら、安らかに上下する胸のありさまを、ただ眺めていたい気分だった。そしてこの世のさいわいに、罪深く恥知らずな我が身にも祈る権利はありやと問いながら、傍らへ跪き頭を垂れるのだ、眠れる聖者のうつくしく規則正しい息づかいを、天の調べと聞きながら。だがその為には、きみがもたらす静もり深い小さな夜を、ひとつ越えなければならなかった。きみの歌はわたしを心地よくまどろませ、控えめに撫ぜたわたしの左手を、いつの間にかヒュプノスのそれと絡ませるのだった。わたしはこの甘やかな誘惑に抗えたためしがない。どうだろう、今日の歌い手はこちらが務めるというのは? 彼は笑うはずだった、調律の狂った楽器を愛し、奏者を愛してはいるものの、脇腹をくすぐられながら眠りに落ちるような芸当は、どんな聖人にとっても難しかろう。無垢な少年のやり方で笑う友の顔を思い描き、わたしの望みは易きに流れた。ロス、今日はわたしがきみの枕元で歌ってやろう 、さあ毛布に肩までうずまるといい、まずは何がいいだろう、こんなのは気に入るかな、わたしの使用人のうち、海の向こうで綿を摘んでいた連中が好んで口ずさんでいるものだ、きみも一度は聞いたことがあるだろう……主よ、弟子にしてください……