Kissing Under Mistletoe

 僕はソファでくつろぐ君の頭にヤドリギの飾りを乗せた。
「なにするんだ」
「これでいつ君にキスしたって許されるからね」
 笑いが弾ける。
「いつも好き放題してるだろ」
 そうだけど、折角のクリスマスだしここは伝統に則って特別な演出がしたいじゃないか。君はさっきから例の……プディングの! 蒸し加減ばかり気にしていた。なんでも代々伝わるレシピなんだそうで、ほとんど身ひとつで家を飛び出した彼が携える“家族の伝統”はそれだけといってよかった。
 というわけで、君の料理はどれもかなりひどい味だけど、今回ばかりは出来合いのもので済ませるわけにはいかなかったのだ。彼の真剣な横顔はやたらとこまごました工程を手伝うめんどくささと天秤にかけても十分見る価値のあるものだった
し、何より自分の歴史の一部を切り分けてくれようとするそのことが嬉しかった。僕はそのお返しに、買ってきたブロック肉をこ~んなに(指と指の間にドーバー海峡が収まる)分厚く切って、クラークソンズ秘伝のレシピで調理してあげることにしたけど、それを眺める彼の目は心なしどんよりしていた。なんで?
“腹が空いた”彼の、ドライフルーツとよくわからないスパイスが山ほど! 入った英国流のケーキは、蒸し器の中でじっくりと力を蓄えている。もう四時間経った。僕の肉はお休み中。味をなじませるためだ。でも彼のに比べたら一瞬。
「まだ待ってくれ、蒸し時間が重要なんだから……本当ならこんな当日に作るんじゃなく、もっと寝かせたほうがいいんだ。今年は僕も忙しかったし」
 君は器用にバランスをとって、頭の上にぞんざいに乗せられたヤドリギの束を揺らした。
「早く公開されないかな。君、今度はものすごくお調子者の役なんだろ?」
「最高だった。あの現場、なんでもありなんだ。まず監督がいい。君こそ、サーシャ・デイビスとのベッドシーンはどうだった?」
 なんてことを聞くんだ、この恥知らず。僕はクリスの声音を真似て答える。
「最高だった。彼女、なんでもありなんだ。まずスタイルがいい」
 恋人の前でほかの人の話をするからって嘘は言わない、こんな日に罪なんて犯したくないからね(別の罪は積んでるけど仕方ない)。サーシャのゴージャスな黒い肌を思い出す。学生時代は体操選手をやってたとかいう身体のしなやかさは今まで絡んできた女優のなかでも飛び抜けていたし、しぐさがめちゃくちゃに色っぽかった。それに……
「あれ何の匂いなんだろう。とにかくいい匂いがした」
「へえ」
 ゴージャスとはちょっと言いがたい(ファンに殺されるな)青白い痩せ型の男がころりと横に倒れこむ。ヤドリギは床に落ち、短い黒髪はクッションの間に沈んだ。
「なにふて腐れてるんだよ」
「ふて腐れてなんかいないさ、ただ君の間抜けた顔を見てたらおかしくて」彼の声はだんだん忍び笑いに変わり、肩が小さく震えた。「このすけべ男。すぐ顔に出る」
「言ったな。そんなのと好き好んで付き合ってる癖に!」
 いつかのお返しに彼の脇腹をこれでもかとくすぐってやると、結構マジに抵抗された。そっちがその気なら構わない、この世はやるかやられるかだ、僕は肉ばっか食べてたテキサスっ子だぞ。君の前で披露したことはないけど、訛りだってすごかったんだぞ。ウッ、暴れる脚から割ときつい一撃をくらいつつもなんとか押さえ込むと、このささやかな運動で息のあがった彼の顔がすぐ近くで目に入る。ワー、これならゴージャスと形容しても詐欺だって怒られない。ほんのり赤くなった頬と乱れた髪、うーん、ファンのみんなと親兄弟には申し訳ないけど僕はすけべ男でいいや、どうせ恋人を噛みまくってる変態だし。筋の浮いた首元がたまらなくおいしそうだ。
 僕がキスしようとすると、クリスは少し困ったように、ヤドリギは床だぞ、とかなんとか言い出した。自分で落としたんだろ。わざと非難がましく指摘してやれば、まあいいか、君っていつも好き放題してるもんな……なんて一人で納得している。頭の後ろで彼の指が髪に絡むのを感じながら、僕は好き放題することにした。プディングは蒸しすぎになりそうだ。ごめんね。