僕は段々、許されるのに疲れてきた。彼はどんなに無理しても僕の思い通りに事が進むよう取り計らってくれていた、彼のぶんのケーキに乗った苺から、君自身の身体まで……もっともあとの方は苺より無価値なのかもしれなかった、僕がコールドスリープに入った友達全員の死を確認した宇宙船クルーみたいな絶望的混乱のなかで彼のすべてを欲しがったとき、なんて事ないような顔でシャツのボタンを外しながらシャワーを浴びに行った君の背中を覚えている。慣れた様子だった、今まで何人もがこうして彼を注文し、お決まりのメニューをたいらげていったかのように。その後のことはよく思い出せない、夜更かししすぎた夜にブラウン管を賑やかしていた砂嵐が、僕の脳みそもざらざらさせている。ただ僕のほとんど崇拝していた最高の役者が、どのスクリーンの上でも見覚えのない顔をして、僕の名前を囁きかけていたことだけが……
「ラフ、どうしたんだい?」
心配そうに翳った彼の視線が僕の額を、前髪を、それにおそらくピントを外した目の表面を撫でた。このままこうして黙っていたら、実際にあの手のひらが肩を擦って、恋人をいたわろうとするに違いなかった。恋人! これがそうか?
「このワインは悪酔いする」
僕は嘘をついた。君のセンスは相も変わらず最高で、素晴らしく香りがよくてみずみずしいこの一本は誰の頭も痛めなさそうだった。げんに僕の頭はくどくどした物思いを除けばしゃんとしている位だった。クリス、言ってくれ。そんなはずないのに、悪酔いするようなものじゃないのに……
「そうかもしれない。ごめん。次はどうしようか、君、なにが飲みたい……」