晴れの日に祝福を

 クリストファー、君はすごくきれいだ。太陽は文句なしの青空の真ん中から気前よくチップを弾んでいる、カメラマンはうきうきしたみんなの笑顔をいくつも写真に収め、はたらき蜂の勤勉さか、あるいはただのテンション上がりすぎの子犬よろしくクルクル忙しく立ち回り、このよき日を永遠にしようと躍起になっていた。君は憂い、ものわずらい、そういったくよくよした気持ちを全部バチェラー・パーティで燃やしてしまって(元カノの持ち物とかをまとめて派手にやった、プロが手伝ったから火柱が二メートルも上がった)、屈託ない最高の笑顔をふりまいている。すてきな花婿、僕の歯がつけたあちこちの傷はもう治ったろうね、そんなのがあったら君の花嫁は排水口に虫が沸いているのを見つけたときみたいな顔になるだろうよ。楽しげな君にまとわりつき、負けず劣らず幸せ一杯といった風情で笑む、美しい花嫁! すらりとしたその曲線はやわらかい、まるでこのドレスに合わせて削りこまれたトルソーだ。祖母のものだというそれは、さらりとしたオフホワイトの布地と、遠い昔の親戚連中の手作業で丁寧に描かれたレース編みの模様、それから粒よりの真珠とで構成されていて、飾り気のないようで質のいい贅沢を楽しんでいるあたりが君やマリアの好みっぽかった。僕は生のバンドと祝福の言葉を伴奏に踊る君たちを横目に、甘えびのカナッペを口に運んだ。ちくしょう、これめちゃくちゃうまいな。それから通りかかったウェイターにシャンパンのおかわりを貰い、夫婦となった二人がダンスの最後にキスをしてはしゃぐ様子を遠巻きに眺めた。周りの人間に合わせてにっこりし、おどけた仕草で体を揺らしたり、お熱い二人をはやしたてたりもしていた。祝福してないわけじゃない、ただ、これが終わったらあの昔馴染みのあばずれ女に電話して、メスを売ってくれる人間を探したいだけ。僕の顔はそのうちふた目と見られないありさまに変わるだろうけど(まあ、施設でさんざんむきだしのソレを見たけどね)、構わない。君は「じっくり家庭を作っていきたい」からもう映画の仕事はやめるんだそうで、「落ち着いたらいくつか小さな舞台に出たりはしたいけど、基本的には家を離れずにできる仕事を」するつもりらしい。そうなんだってな、じゃあ僕も商売道具を捨てたって構わないや、ソファでいちゃつく君と君の家族にないがしろにされるのはごめんだ。僕は反省した、彼とふざけるのに夢中で真面目に観なかった色んな映画に謝りたかった。
 ラフ! 僕は急に告解部屋から引きずり出され、手招きする二人を見る。君たちは仲良しを集めて写真を撮るらしかった。僕は含み笑いをしながら彼の隣に行き、いつものように馴れ馴れしく肩を抱いた。君の横顔は晴れやかで、愉快げに笑うたび僕の腕も揺れた。それで、誰かの下品な冗談においおいと小さくのけぞった僕が君のタキシードの隙間から見つけたのは、君のうなじにうっすらと残った、昨日の悪ふざけの痕だった。