わたしは聞いてしまった。
            「旦那さまのお歌はひどい、蛙でももっと上手く歌う。ましになりませんかね、若さまがちょいと教育してやれば?」
            「それは必要ないよ。わたしは彼に上手くなってほしいとは思わない」
             なんということだろう! 我が友はわたしの弁護はしなかった、救いようのない下手くそだと暗に肯定したのである。この仕打ち、非道な裏切りにはまったく愉快な気持ちになった。
            「実を言うとわたしもなんで。旦那さまは欠点の多いお方だが、気取らないところはいい」
             口の減らない性悪小人め。今夜、あいつの靴いっぱいにボンボンを詰めてやることに決めた。
            「気取らない、そうだね。そこが好きなんだ」
            「お熱いこって」
             わたしは鼻歌まじりに出ていこうか迷ってやめにした。自分の噂は聞かなかったことにするのが一番いい、それはよくよく知っていた。