「クリス、散歩しよう。こんなにいい天気だろ。君はもうちょい外に出て日の光でも浴びた方がいいよ。だいいち、こんな晴れてる休日なんて久々だしさ。僕の映画なんて観る価値ないよ!しかもエリックのだぜ。あれは夜中にピザとか食べながら観るべきものであって、最高のお出かけ日和のまっ昼間と交換にするのは本当、ナンセンスだってエリック本人が言ってる。だから外に出ようよ、サンドイッチでも買ってさ」
などと、彼は一方的に喋りまくった。僕を連れ出そうとする文句の割に、彼自身はソファの上でぐうたらしていて、だらしなく脇腹なんか掻いている。僕は窓から差し込んでくる爽やかな明度の光のもと、彼のテレビ棚をあさった。それぞれのパッケージには大きさ様々な彼の姿が印刷されていて、特にでかでかとわざとらしいものは、彼の親友の映画監督が撮った、いわゆる"B級のアホくさいモンスター映画"ばかりだった。彼は意外にもまともな役柄で主演を張ったことがない。脇役のほうがいいんだよ、と言っていた。僕は歯がこんなだし。
「クリス!僕と散歩に行く?行かない?」
ぎざぎざの歯の男は子供っぽくわめきたてた。僕は取り出しかけの共演作をそっと戻し、彼のほうに向き直った。あの貴族を演じた役者と同一人物とは思えない、だらしない男が目に入る。寝癖のついた髪、眠そうに緩んだ顔、寝間着そのままのような服装、裸足。率直な意見を述べる。
「君、そんなよれよれのTシャツとスウェットで僕の隣を歩くつもりかい?」責めるような調子はすぐに笑いに変わってしまった。彼のきょとんとした顔がおかしかったからだ。「まさか、それでまともな格好をしていると思ってたのか。勘弁してくれ」
「上になにか羽織れば?」
「いいや。全部替えてくれ」
僕は言い捨てて玄関へ向かった。置いていかれる気配を察したラファエルは、慌てた足音を立てながら寝室へ引っ込んだらしい。やかましくクローゼットを開け閉めし、次に現れたときにはもうすっかりハンサムな人気俳優になっているはずだ。僕はまた笑った。