おなかがぺこぺこ

 僕はヒロムの用意してくれた最高の特殊メイクを気の済むまでいじくり回した。僕が世界一愛する人の腹のうちを探っているというわけ。君は時折くすぐったそうにしながらも、この不毛な遊びに付き合ってくれている。撮影は一段落し、本当なら休憩に入っているはずの彼を引き留めてこんな遊びの相手をさせているのは僕の我儘だ。雨が上がったばかりの路地裏のセットは吸い殻やファストフードの脱け殻で賑わっていて、僕のクリストファーは裸足のまま濡れた地面に転がされている。レインコートを血糊で汚した僕演じる殺人鬼/殺人鬼演じる僕は、どんな風でも美しい彼の姿に惚れ惚れとし、脇腹の切れ込みに手を突っ込んで、ぐずぐずした中身をまさぐってはため息をついていた。これがシリコンやなにやらでなく本当に彼のものならどんなにいいか。僕は歯をがちがち鳴らした。この歯のおかげで今回の役が取れた。クリスはこれを聞いて楽しそうに笑った。
「ラフ、さすがにもう気が済んだよな?」
 お腹がぺこぺこなんだよ、と彼は続け、薄目を開けて僕の返事を待った。初めてスクリーンの上で彼を見たときから、この綺麗な青が欲しかった。
「いいや、まだまだ……これから僕、『君を殺した』気分にならなきゃいけないんだからさ。今だけでいいから、君を僕だけのものにしてもいいだろ……」