僕の頭の中には同じフレーズがぐるぐる回っている。クリスから謝罪の電話が来たのは二時間半前のことだった。その時僕はちょうどエリックの家でやけ酒に走っていて、携帯はその辺に置いたまま僕らの映画へ無限にけちをつけていた。その道でだけ大天才のエリックは過去の自分のアイデアをとことんけなしまくりつつ、次回作の構想をワイワイ喋りまくっている。僕はいちいちゲラゲラ笑いながら、頭の片隅ではクリスのことばかり考えていた。僕にあんなメールを送らせておいて、まさかドッキリだったなんて。明日からどう生きていけばいいんだ、僕を狙う君のファンの銃口からどうやって逃げればいいというのか、それと君自身のちょっと引きぎみで気まずげで気遣わしげな目線から……。君の返信は「なるたけ人を傷つけずに」の例文集から引っ張ってきたみたいな、すまなそうでかつ朗らかで、それからだいたい誠実だった。僕は傷ついてはいなかったけど(よくよく考えればかなり疑問の余地のあるメールばかりだったから、深刻に考えすぎた僕が悪い)、いたたまれない気持ちでいたし、何より彼に向かって愛してるなんて文言を送りつけた後悔が僕をやけ酒に導いていた。それでだいぶ出来上がったエリックと二人で歴代のNG集に手をつけた頃合いに、彼から留守電が入っているのに気がついたのだった。
それから帰宅した今に至るまで、僕の頭の中を同じフレーズがぐるぐる回っている。彼のメッセージはいつもの彼らしく簡潔で、それなのに重さといったら独立宣言と張り合える程で、僕はベッドに縛り付けられて動けなくなってしまっている。
それとラファエル、僕もだ。
ほんの付け足しのようにも聞こえるこの言葉は、そんな付けたし程度のものじゃない。そうじゃなかったら君はあんな単純な台詞の前にためらいの数秒なんて置かない。胸が苦しくて仕方ない。僕もだ、ラファエル、僕もだ……