「それでその……君はどっちだったんだ?」
「僕はどっちも。一番そういうことしてた男相手ならえーと、上だったかな?」
「じゃあその……」
「いいよ。君は慣れたほうをやればいいさ」
僕はあっさり言い捨ててシャワーを浴びた。彼の家の浴室に入るのは二度目だったけれど、間違い探しレベルに変わらない整頓のされっぷりで、丸をつけるとしたら石鹸の減り具合くらいだった。さっくりで済ませて脱衣所に戻ったとき、僕は下らないことで悩みはじめた。彼は脱がすところからやりたいだろうか?
「クリス、僕を脱がしたい?」
返事まで一拍空いた。ご自由に、という返事が飛んでくる。僕は服を畳んで裸で出ていくことにした。彼の反応が見たかったからだ。足の裏に感じるフローリングの冷たさは、これから僕たちのすることとはいい具合に隔たっていて気持ちがよかった。彼は一糸まとわぬ姿の恋人のギリシャ彫刻もかくやという豊かな肉体を嫌そうに眺めた。
「ご自由になんて言うんじゃなかった」
「なんで?」僕は廊下の出口の壁によりかかった。「嬉しくない?」
「入ってこないでくれよ。キッチンの窓から丸見えになる」
彼は追い払うように手を振って、暗に寝室へ行けと命令した。僕はその通りにし、彼のベッドの彼の布団にくるまって待った。ご主人様を待つ犬そのものだ。そこらじゅういい香りがしてたまらなく安心するこの布の海で、僕は体を丸め、ぐっと伸ばし、また丸めた。しばらくして彼が来たとき、この駄犬は半分眠ってしまっていた。足音が聞こえてからもまぶたを閉じてまどろんでいると、もうすっかり暖まった布と布の間に人間ひとりが滑り込んでくる。
「あっ」
「このほうが手間がはぶけるからね」
いきなり肌と肌とで接触することになった彼はすばやく僕に覆い被さって顔のあちこちにキスを降らせた。それからいたずらをするように僕の肩のところに何度か口づけて、また唇のあたりをついばみ、舌とかを使って軽く楽しんだ。
「はしゃぎすぎじゃないの?」僕は聞いた。目を細め、微笑み、くつくつと声を洩らす彼の様子はいかにも幸福そうでいとおしかった。「いまの君は頭がおかしいんだ」
「そうかもしれない。でも君ほどじゃない。それに明日はオフなんだ」
オフだから何なのかはよく分からないけど、楽しげなクリスはかわいいし、骨の浮いた身体は(また映画産業は彼を不幸な囚人にした)ありえないほどセクシーだし、もうどうでもよくなった。僕は眠れない夜お気に入りのテディベアにするように、力いっぱい彼を抱き締めた。彼はまた嬉しそうに笑った。