愛は哀しみの隣

 屋敷をうろついている蛇のいたずらで、カーテンの布地はほんの少しだけずらされ、部屋には一条の光が注いでいた。注意深く距離を保ってうずくまるきみはひどくなつかしそうに、その暖かさが床の上で蕩けるのを眺めていた。横顔をおごそかに染めるのが薄暗がりか薄明かりかは、判然としなかった。わたしが入ってきたのに気づくと、ぼんやりとした視線がこちらに移る。瞳の青の中で細かく砕かれた光の粒がほのかに弾け、背を向けたはずの太陽が、きみに祝福をあたえていた。たったこれだけの明るさでも咎人の胸をうつに足りるのだから、まっさらな太陽の下できみはどれほど綺麗なことだろう、そう思ってしまえばこの場面は、憂鬱な色彩で額の中に閉じ込められる。
 きみはわたしの視線を受けてそっと立ち上がった。それからわたしたちはどちらからともなく歩み寄り、相擁した。温もりはいとおしく、まず愚かで役立たずの左目が、次に沈着なはずの右目が、自分勝手に涙をこぼした。次から次に漏った雫は、匂いまで柔らかな彼の上着を、ためらいもなく汚していく。しかしわたしの襟元も、溜息とともに湿ったようだった、濡れた頬が耳元に押し付けられる。わたしは自分が子供に戻ったような気がした、その子供は恥じらいを知らず、嗚咽をこらえることもせず泣きじゃくった。
「きみなしでは生きられない」
 わたしは彼を一層深くかき抱き、彼もわたしに同じことをした。互いに、癒えたはずの傷が開くのを感じていた。