聖者の話

 男は座り込んだ。季節は冬だった。むき出しの地面に霜が降り、身なりのいい男の隣でうずくまる乞食の身体からも、貴重な熱を奪っていた。泥と埃で溶けかけの毛布の線維には、南京虫と蚤とが潜り込んでいるに違いなかった。男は革手袋をはめた手で、友人の丸めた背中を撫でた。まだ十分に暖かかった。春まで持ちそうだ、と男は安堵した。路地裏の貧者は決して施しを受けようとはしなかった、差し出された金貨をそれが汚物であるかのように拒み、他人の愉悦に容易くわが身を捧ぐほど卑しく落ちぶれた覚えはないと告げた。然し会話には餓えていた。昔語りはしなかった。食える鼠とそうでない鼠の見分け方を、貴い身分の男にしきりと教えたがった。
「これくらいは受け取ってくれてもいいだろう。友からだ」
 男は乞食のかたわらに、ちいさな毛皮の塊を横たえた。薄汚れてはいるが、病に冒されてはいなかった。