病める人

「アーティ。アーティ、アーティ、アーティ。黙れ。おちょくられたのは私のほうだ。あの男はお前の差し金じゃなかろうね。まさか! 私になんの得がある、ないとは言い切れんが、嘘を食べ慣れた君のこと、虚偽より真実を飲んだほうがずっと愉快にのたうち回るだろう。しかし一体ぜんたいどういう風の吹きまわしだ? 君が私を誘惑するように仕向けた訳じゃあるまいし、ならこの手の遊びに思うまま興じる我々が羨ましくなったのか──顔が青いぞ、どうした? ハハン、怒ったな。面白い見世物だ、君は私がどれほど侮辱しようとそんな風に拳を握ったりしなかった。あの司祭くずれがどんな誘い文句を吹きかけたか聞かせてやろうか? そうすれば君も……おや、君は私に、この私に牙を剥くんだな。いいぞ、やってみろ、その毀れた刃を私に振り下ろせ! どうした! 私を殺してみせろ! 殺せ!」
 彼は私の首を折ろうと健気に力を尽くしたが、私の用意した五番目の死に方をなぞって床に這いつくばることになった。勿論まだ息はしている、ただあのふざけた男と揃いの痣を、首まわりぐるりと一周染め付けただけだ。世の中は彼と私の関係ほど甘くない、このでき損ないが泣こうがわめこうが決して到達できない頂点に、私はものの初めから足を置いている。やつにはこの種の争いに必要な力が備わっていないのだ、愉快なドードー鳥、お前を翔ばす羽はない。私の爪先が小突くと、彼は折れた左腕を庇いながら起き上がった。口元は血だらけだが、半分はこのけだもの自身の咎による。かわいいお前を歯抜けにはしたくない、私は力加減に気を使う必要があったが、この男はいつだって労を補って余りある素敵な眺めを提供してくれた。お前の牙はお前自身をずたずたにする。
「私は異常者じゃない、他人を痛めつけて楽しむ趣味はない。君と私は旧知の仲だ、君は私を知っているし、私は君を知っている。だから楽しいんだ、それをあの愚か者によく言い聞かせておいてくれ……」
 やつはそのお喋りな嘴をつぐんだまま私を睨め付けた。以前は薄笑い以外がこいつの顔を彩るのは稀なことだったが、今はやろうと思えばいくらでも引き出すことができそうだった。あの司祭の導きでお前は改悛したらしい、この私ひとりを置いて。