今夜ばかりはきみも現れないと思っていたが、足音は宵闇を滑るようにしてやってきた。寝台に慣れ親しんだ重みがかかるのを感じた。彼が息を吸う音が聞こえる、あろうことかこの男は、普段と変わらず歌うつもりなのだ、横たわる獣を憐れんで、慰めを口ずさんでやるつもりなのだ。わたしは猛然と身を起こし、彼を引きずり倒した。痣だらけの身体を枕の上に沈める腕の震えは、なにも折れた片方の痛みのせいだけではなかろう。あの男が絵付けを施した磁器の上には、腐りかけの乳房に似た鈍い紫が踊っている。わたしは限りなく憎悪に近い感情に臓腑を乱され、呻き声をあげた。食いしばる歯の間からも漏れ聞こえるそれは、わたしが意図したよりもずっと、獣の唸りに似ていた。彼はわたしに肩を押さえつけられながらも、冷めた慈悲の瞳を向け続けていた。いかな穢れがその面を蝕もうと、きみの青だけは、蒼だけは、碧だけは。
「よくも歌など囀りに来ることができたものだな、このわたしの夜に、きみの悍ましい親切心を塗りたくるなど、このような汚辱に、何故……」
堕落した司祭は手を伸べた。わたしの牙はこの暴虐にいきり立ち、爪に乾いた血のこびりつく指先へと躍りかかった。その根本に惨たらしい傷が残り、鮮血がシーツを汚した。きみは顔を歪めることもなく、野蛮な衝動にかられるわたしを見守っていた。
「わたしに価値はない」犯したばかりの罪が顎を滴り、むず痒さを残して落ちていった。「だがきみは違う。きみは自分が価値を認めているものを……あの男にくれてやった、わたしには決して許さなかったものを! きみは、きみはあんな男にくれてやったんだ……」
わたしは彼の視線に耐えられなくなった。質素な装いの下に隠されたきみの過ちはわたしの精神を荒廃させる、彼の胸にすがりつき嗚咽を漏らす卑しい化物は、欲などないと嘯きながら、醜い破滅を夢見ていたのだった。