七夕

 「東洋にはこんな恋人達の話がある……彼らは川を挟んで暮らしていて、年に一度だけ会うことを許されるんだ」
「へえ、たった一度きりかい? 一体ぜんたいどんな罪を犯したんだろうね……だが彼らは忍耐強いのか大人しすぎるのか分からんよ、それでよしとして年を重ねているんだから……もちろん僕はそのどちらでもないさ、例えばだよ、君が川向こうに住んでいるとする……僕は年に一度の授業じゃとても満足できないし不足だから、泳いでだって渡っていくだろうね!」
「実に君らしい、では授業が終わったら?」
「それはもちろん、また泳いで帰るのはひどく億劫だから、そのあたりに住まいを探すか、でなければ君の家に居座るかだね、そうできたらさぞ素敵だろうと思うんだが、生憎ここにはもう一人を受け入れるだけの十分な空きがないようだし、何より君の意志が尊重されるべきだった、君は僕みた様なでかい男と一緒に暮らすのは、さぞ厭だろうと、こうくるわけさ……だもので、やっぱり外なんだ……」
 Zは同程度の冗談か、でなければ軽やかな笑い声で応じる積もりでいたのたが、それらは容易に出てこなかった。この男が俺の部屋に住みついたら? 彼は代わりにこんな物思いに囚われた。朝起きればこの男の間の抜けた善良さがおはようの形をとって投げかけられる、そうしてお茶とトースト、ちょっとした卵料理でも挟んで一日が始まるわけだ、昨日のつづりの間違いをおさらいなんかしながら……Zはむっつりと押し黙ったまま、お茶をすすった、突飛な幻想はなかなかこの官吏の頭を離れなかった。Kは訝るでも気を悪くするでもなく、人懐こい笑みを浮かべて、相手の唇が返事のために動くのを、心静かに待ちわびていた。