Kはお茶を淹れた。彼は自分の教師の真似事がしたいらしかった。Zはひとつきりしかない椅子に腰かけ、どうすればこの子供っぽい、その癖立つと見上げるほど丈のある親切な男の機嫌を損ねずに、床で沸かされた茶を断れるかどうかを必死に考えていた。潔癖という訳ではない。ただ、中流家庭で育まれた彼の感性は、土足の踏んだ板の上に置かれたポットという図に生理的な嫌悪を生ぜしめずにはいられなかった。彼は寒さを材料にして、お茶は冷めるがアルコールは一晩中もつ……というようなお粗末な言い訳を拵えた。Kはあぐらをかいたまま、意味深に顎をさすってみせた。彼とてこの奇妙なままごとに没頭する気が失せていたのだった──何しろ、用意していた茶葉の中に異様な構造物を見つけ、慌てて取り除いたのが薄気味悪い蚊蜻蛉の類いだったので……彼はついにお茶の支度を放り出し、伸びあがるようにして立った。Zは驚いて軽く首をすくめた。それがいかにも当惑した様子だったので、Kは愉快げに声を転がし、お茶はやめにして飲みにいこうか、と快活な調子で歌った。Zはほっとして後に続いた。