通りのはるか向こうから友人の嫌でも目立つのっぽの姿が近づいてくるのを見て、Zはただぼんやりとだけした。おおかた挨拶でもする気だろうから、と気のきいた文句を頭の中に三四つ並べてそのまま歩みを進めていたが、ちっぽけな人影を親愛なる教師と認めたらしいKはみるみる足を早めていって、しまいには大急ぎで駆け寄ってくる形になった。身丈の並外れた男が一目散に突進してくるものだから、ほとんどぶつかりかけになったZは面食らってよたよたした。Kはというと、それについてはお構いなしに(自分の大きさを分かっていない犬がよくやるようにだ)、人好きのする長い顔を喜びでにこにこさせて、荒く弾んだ息のあいまにこのようなことをまくしたてた。Z、こんなところで君に会えて嬉しくなった、立ち話でもしたいところなんだがなにぶん僕はやぼ用を抱えていてね、いやまったく邪魔っけな用事さね! とにかくこいつは君にやるから、昼のお供にでもしたらいい、なに、僕はこいつにありつく暇がない、気にせず受け取っておくれよ、それじゃ!
Kは友人の手をとってくしゃくしゃの紙包みを押し付けると、彼の肩を宜しくの意味合いを込めたやり方ですばやく二回叩き、これなるは嵐かつむじ風、といった具合に走り去っていってしまった。いささか狼狽ぎみのZが振り返れば、ぼろ外套はもう声をかけるには遅い所にあったから、包みの中身は聞けなかった。Zは困惑と面白がりの重ねあわせの妙な心持ちになったが、まああの男がなけなしの昼飯を分けてくれるのはちょいと愉快な出来事ではあった。彼は包みを持ち直し、労働者のふだんの食事はどんなものだろう、と昼飯時が楽しみになった。
ところが中身はごちそうにはほど遠かった。灰色のぱさぱさしたクラッカーかなにかの間に、ぼやけたあずき色のパテが塗りたくられていて、そこに見慣れないじゃりじゃりしたものが──砕いたシリアルに似ていた──混じりあっており、およそ食欲をそそるとはいえなかった。とはいえ地味なだけで毒々しくも腐り気味でもなく、匂いはほのかに肉っぽく、ひとまず無害そうだったため、Zはふだんの食事と同じく、ごく事務的にかじりついた。味はひどいものだった! 塩気と酸味とほのかな苦味とが、それぞれてんでばらばらに舌へ貼り付き、だんだん奥のほうへ滲みた。そして肉っぽさと穀類の風味の間に名状しがたい化学性の香りが滑り込み、咀嚼するといっそうぱさついたクラッカーが唾液を残らず吸いとってしまい、次いで思わぬ脂っこさが感じられ、すべての要素が大喧嘩しながらごちゃまぜの様相となった。だがまずくはあっても吐き戻すほどでもなく、Zはこの妙ちきな代物を黙々と噛んで飲み下し、結局はきれいに平らげてしまった。彼は最後の一口を胃の腑へ納めてしまってから、いつものサンドイッチがいかに美味しいものかをしみじみ思った。後味はお茶を何杯か飲んでようやく消えたが、このひどい昼食を親切らしく押し付けてきたKの幸福そうな笑顔は、いつまでも瞼の裏に残りつづけた。Zはやれやれと笑みをもらした。何故だか不思議と楽しい食事だった。