お洒落さん

 ナターリヤが上等な端切れでくるみ釦を作ったというので、Kはそれを五つ貰った。これは純粋な絹織物で、派手な柄だった。釦程度では面積に乏しく、全体として何の意匠であるかは、いくら回してみても判然とはしなかった。ただ、色の組み合わせは美しく、濃い褐色と深い緑色、それらの間で所々に現れる金銀の糸が不思議と調和をとっていた。Kはこの釦をどうしてくれようかと検討しはじめたとき、真っ先に自分の教師を思い描いた。しかしZの役人らしい地味な装いにはまさに金銀が不釣り合いで、まったく滑稽な有り様になった。彼は忍び笑いを咳で誤魔化し、次のマネキン人形を選びにかかった。髭もじゃのアレハンドロ・Kがスポットライトの下に現れた。感情豊かな親友は気取った調子でかかとを揃えると、誇らしげに胸を膨らませ、後ろへ倒れんばかりになった。なるほど彼の着ているベストはなめらかな光沢の臙脂、多少けばけばさせたところでどうってことない装いである。愉快にタップを踏ませてしばらくしてから、Kはアレハンドロが先週このベストを質に入れてしまったことを思い出した。それで役者は次々と交代し、同僚のミハイル・Cや『つばめ』やエフゲーニイ・ヴァシーリエヴィチ・イリューシン、クズネツォヴァ夫人やナジェージダ・Mといった顔見知りの妻たち、片輪の『お月ちゃん』や(客という意味ではなしに)懇意にしている娼婦のタチヤーナ・レンコヴァ、果ては『帽子亭』の隅でいつでも静かに酒を飲んでいるアレクセイ・セミョーノヴィチ・ロマノフスキーまで顔を出したが、くるみ釦はだれの服にも馴染まなかった。そこでKはナターリヤに一枚きりしかない自分の外套を預けると、その釦を襟のところへひとつだけ縫い付けてもらった。
 Zは授業終わりのお茶を淹れる段に至ってやっと、Kに釦のことを聞いた。貧しい生徒はにっこりとし、これはとっておきでね、などと返した。このときKはいかにもいたずらっぽく片目をつぶってみせたので、Zは思わず笑ってしまった。