いくらか春を越したら

 Kは退屈な労働を終えてしまうと、浮かれ気味の仲間と共に(もちろん彼も浮き足だって、一杯ひっかける前から雲を踏んでいた)お決まりの場所へ繰り出し、そこで互いの健康を祈って盃を干すと、今日は特別に糧への感謝を述べて焼き菓子を分けあった。この男は非常なのっぽであったから、お祭りの日にもあまり喜べない不潔な接吻はのびあがってこれをかわし(とはいえ顎先はいつも犠牲になった)、そうはいってもやはり感謝祭のしきたりにのっとって、友人の熱烈な感謝を受けたり、反対に自分から、そりのこしの髭がちくちくする頬とか、しみだらけの額とか、吹き出物のかさぶたの残る鼻とか、それからきれいどころの紅を引いた唇に、暖かい思いやりを落としてやるのだった。十二分に飲み食いし笑ったところで、彼はこっそり厨房へまわり、ビールの瓶を取りにきたナターリヤ・Fからまだどこも欠けていないパウンドケーキを半分、清潔なナプキンに包んでもらった。そして決まり文句とともに上気した頬の柔らかいところへ、とびきり愛情ぶかく唇を押し付けてから、裏口を出てまっすぐにZの住居へと向かった。Zは友人を快く招き入れ、ほんの一瞬ためらったあとで、彼らなりの挨拶を交わした。近頃は情がこもりがちで長くはなっていたものの、玄関先で過ごすには失礼でない程度の時間であったから、二人ともあまり盛り上がりすぎずに済ませた。彼らはそれぞれ慣れた足取りで居間へ行き、それぞれに支度をした。Kは外套を脱いでコートかけの上の方に引っかけ、ポケットからうやうやしく包みを取り出したし、Zはキッチンから丸のままの少々焦げ付いたカステラ──昔を懐かしんでこれにした──を持ってきた。
「少し失敗したんだが……前にいた所ではこういうものを配ってまわるのが一般的だったんだ。半分は君に。我々の魂を養い肥やす日々の恵みに……」
「君にも感謝を、Z」と彼はひとかけらかじって、愉快そうにした。「確かに焦げちゃいるが、僕は香ばしい方が好きだよ」
 Z地区におけるこのあとの手順が閨事の作法でなされたため、Zは相手の胸を押してたしなめたが、口元は隠しようもなく笑んでいて、濃い褐色の瞳はわずかに緩んだ瞼の間で、ほのかな熱に潤んでいた。Kはこのじゃれあいに、夢から覚めたばかりの子犬の満足でもってその面を彩ると、とっておきの包みをひらいて、中身の菓子を半分に割った。
「Z、これは君のために。僕と、僕のやさしい妹から」
「君と君の妹にも感謝を」
 Zは相手の肩へ両手を乗せた。それを合図にのっぽのKが身を屈めると、彼はほんの少し背伸びをして、まるで八歳の少女がするように、Kの額へそっと口づけてやった。登場人物はいい歳をした大人の男で、ここは仮住まいの質素な官舎だったが、捻ねくれたお伽噺の一場面は何故だか厳かな色彩で彩られ、興ざめな恥じらいの入り込む隙間はどこにもなかった。感謝祭の平和が、とるに足りない人間たちを囲んで、何事もなく豊かに香る。